芭蕉涅槃図のことを私が意識し出したのは、人間国宝だった桂米朝師が、2015年に亡くなられる前くらいのことだった。
ブッダの入滅を描いた釈迦涅槃図を模してなお、日本人の誰からも文句が出ないのは松尾芭蕉くらいで、芭蕉の死後、何人もの画家によって芭蕉涅槃図なるものが製作されたが、さて、現代において、桂米朝師が亡くなったら、日本文化におけるその損失感と、お弟子並びにお慕い申し上げる人々の嘆きたるや、きっと釈迦や芭蕉の遷化に勝るとも劣らないだろうと、芭蕉涅槃図のことを念頭に、考えていたものだ。
それはさて置き、「芭蕉涅槃図の世界」という展示が大垣市の奥の細道むすびの地記念館で行われていると聞いて、これは是非行かねばと、万障繰り合わせて、出かけさせて頂いた。
釈迦と芭蕉、その死の衝撃の大きさや、ブッダの十大弟子と蕉門の十哲との比較連想などが、発想の底にあるのだろうけれど、釈迦涅槃図だけでも十分に興味深い仏教文化であるところに、この芭蕉涅槃図なるものは、釈迦涅槃図のモチーフを踏まえて芭蕉ゆかりの事物を画題に配し、なおかつ芭蕉の追善法要などにも実際に使用されたというから、文化人類学的に見ても、とても興味深い美術品だ。
奥の細道むすびの地記念館では何幅もの芭蕉涅槃図に解説を施して展示し、またそれをさらに詳しくまとめた図録も安価で出版しておられたので、今月19日までの特別展と聞いて遠路はるばる訪ねさせて頂いた収穫は、誠に大きいものでありました。

おしまい。
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