2013年にタイで僧籍を剥奪された破戒僧、俗名ウィラポン・スクポン(元の法名=ルアンポー・ネンカム)が、国外逃亡していたアメリカで逮捕されたニュースが2017年7月現在、日本でも報じられている。
2013年時点の報道に関しては、私の手元に新聞の切り抜きもあるのだが、今回の事件の詳細については、事情に詳しい在住者の方のサイトなどを待つとして、さて、私が気になったのは、今回、逮捕後の犯人が白いTシャツを着ているのを、「逮捕された時の映像は袈裟じゃなくてTシャツ姿でしたねえ」と日本の番組で報じていたことだ。
いかにも生臭者の偽坊主らしく、一般人と変わらぬ格好をしているね、といったニュアンスに聞こえたのだけれど、しかしこれはタイ当局によって、犯人が在家者の印である白衣を着せられたのではないかと、私は想像している。
インドでは昔、お坊さんではない一般人は白い服を着ていたので、現在でも仏教では在家仏教者のことを「白衣」(びゃくえ)と呼ぶ。例えば天台宗でもよく上げる法華経の神力品に、「若於僧坊 若白衣舎」という言葉があるのは、「たとえお坊さんの僧坊であれ、あるいは在家信者の家であれ」という意味だ。
元々は単純に、灼熱のインドでは一般的に普通の人が着ていた服が、たまたま涼しい白い晒しの布の服だっただけなのだが、タイやスリランカなどのテーラワーダ仏教国では、白い衣は在家信者の着る特別な衣装となった。月に2度の仏日のお寺参りの時にだけ白衣を着たり(場合によっては上半身は白Tシャツのこともある)、得度式で黄衣に着替える前にまとったり、寺院で戒律を守って暮らす女性修行者(タイではメーチーと呼ぶ)が白い衣を着ていたりするが、これらはインド以来の慣習が、他国では象徴的な色の特別な衣装になった例だ。
ついでにこの報道で気になるもう一点が、犯人の元の法名に付く「ルアン・プー」という肩書きだ。「ルアン・プー」もしくは「ルアン・プ」と表記されているこの言葉は、タイ語で高位の僧侶に呼びかける時の敬称「ルアンポー」のことではなかろうか?
詳しくは「アジアのお坊さん 本編 お坊さんの呼び方」を参照頂きたいのだが、とりあえず私はこの言葉を、カタカナ表記なら「ルアン・ポー」もしくは「ルン・ポー」と書いている。
これの英語表記が「Luang po」や「Luang pohr」と共に「Luang pu」となっていることがあるので、それをカタカナにしたメディアでは、「ルアン・プー」となっているのでないかと思うのだが、ちょっとタイ語、タイ仏教、タイ事情について私より詳しい方のご教示を仰ぎたいところだ。
以上、今回のタイ僧侶事件報道で、私が気になった2点でした。

おしまい。
※画像はタイのワット・サケット寺院の授与所で見た在家仏教徒人形。