得度して本山に上がるまでに京都のお寺で小僧修行をさせて頂いたのだが、当時は右も左も分からない、お経はみんなに一から教えて頂く、その中でも天台声明というものが、特に私を悩ませた。
節のないお経ですら覚束ないのに、聞いたこともない難しい声明の節回しを、基礎も習わずに耳で覚えよと言われて、随分と悪戦苦闘した。
先輩の小僧さんに声明の達人がいて、彼は西洋音楽を趣味にしていたから、音階の構造にも詳しく、声明の和音階との関係も理論的に理解した上で、なおかつ実際に声明を上げることにも長けていて、美しく正確な節回しを披露しがてら、初心者の私に何かとご教示下さったものだ。
その方がいつも声明を調律するための調子笛を手にしておられたのも覚えているのだが、さて、お話変わって、先日、書類を整理していたら、平成26年に天台宗各寺院に送られて来たチラシが出て来た。
宗門校の叡山学院が開発した「遥聲(ようせい)キーボード」という道具で、形はCASIO社製のキーボードを踏襲し、「聲明の譜面を見てどの音を出せば良いかすぐ分かる仕組みとなっていて、自坊・自宅で聲明を自習・独学できるように叡山学院法儀聲明部が考案したもので、聲明用の音階名と洋楽の音階を示し、キーボードに十二律を明記した優れものです」とのこと。「アジアのお坊さんグッズ 音の鳴る物編」コレクションに加えたい一品だ。

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