往生の素懐 | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

身内の葬儀に参列したのだが、その時、司会者の方が故人のことを「往生の素懐を遂げられた」と表現したのを聞いて、一般の人はこの言葉を聞き取れるものなのだろうかと、訝しく思った。

「平家物語」あたりに出てくるような時代がかった台詞に思えたのだが、インターネットで検索したら、「葬儀でよく聞く『往生の素懐(おうじょうのそかい)』って何ですか?」みたいな質問が、いっぱい載っていた。

ちょっと自信がないけれど、この台詞は浄土教系の宗派の葬儀で、司会者の方のアナウンスによく使われるのかも知れない。自分が導師だったり、出仕したりする天台宗の葬儀で余り聞いたことがなかったために私には耳慣れず、今回、身内の葬儀で浄土教系の葬儀に随喜した時に聞いて、珍しく感じた。

ちなみに「素懐」は「常日頃からの深い願い」みたいな意味だから仏教用語ではない。だから「往生の素懐を遂げる」は、「往生したいという願いがかなえられた」という程の意味になる。

気になって「今昔物語集」を調べてみたら、たくさん採録されている往生関係の伝説に「往生の素懐を遂げる」という言葉はなく、「今昔」から百年後くらい後に成立した「平家物語」には、この言葉が頻出する。

「今昔物語集」の成立は正確に何年ということが言えないそうだが、おそらくはその成立が、法然上人、親鸞聖人の活躍による新しい日本浄土教の勃興以前であることと、関係があるのかも知れない。


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