1
時々、地球に宇宙托鉢僧がやって来る。運河が無尽に走るバンコクの川沿いの家々に、小舟を漕いだ托鉢僧が来るように、一人乗りの宇宙船を操って彼はやって来る。ハッチを開けるとやわらかい衣をなびかせて、物も言わずにただ家々を巡る。食べ物を差し出す人もいる。一夜の宿を申し出る人もいる。そして皆は一様に彼の話を聞きたがる。
時々、地球に宇宙托鉢僧がやって来る。運河が無尽に走るバンコクの川沿いの家々に、小舟を漕いだ托鉢僧が来るように、一人乗りの宇宙船を操って彼はやって来る。ハッチを開けるとやわらかい衣をなびかせて、物も言わずにただ家々を巡る。食べ物を差し出す人もいる。一夜の宿を申し出る人もいる。そして皆は一様に彼の話を聞きたがる。


2
托鉢僧は昔、考えた。人類がアフリカで発祥し地球上に広がる中で、インドでは仏教が発生した。仏教は各地に伝わる中で、妻帯しない出家者の集団を大量に生み、種の保存という人類の本能に大きく逆らった。人類の生物学的進化において、仏教の伝播と僧侶の増加にどんな意味があるのか? この謎を解くために、彼は出家して、托鉢行脚の旅に出た。
托鉢僧は昔、考えた。人類がアフリカで発祥し地球上に広がる中で、インドでは仏教が発生した。仏教は各地に伝わる中で、妻帯しない出家者の集団を大量に生み、種の保存という人類の本能に大きく逆らった。人類の生物学的進化において、仏教の伝播と僧侶の増加にどんな意味があるのか? この謎を解くために、彼は出家して、托鉢行脚の旅に出た。


3
犀の角の如く、たった一人で修行すべく、托鉢僧は小さな惑星に一人旅立ち、坐禅瞑想の日々を送り、そして彼は考えた。悟りを開くには出家するに越した事はないとブッダは言う。では仏法が十分に広まって人類全部が出家したら、人類という種は絶えるのか? 仏教は形を変えつつ世界に広まった。僧侶集団とは遺伝子が種を保存するように、次世代に仏法を伝えるシステムだ。ある時はテーラワーダの黄色い衣に、ある時はラマの赤い衣に、また東アジアの黒や茶色やねずみ色の衣に姿を変えて、仏法は伝わった。悪名高い日本の僧侶の世襲制も、仏法という遺伝子が滅ぶよりは伝わることを良しとして、自身の存続を最優先した結果生まれたシステムなのかも知れない。仏法遺伝子にとって、地球上の全生命の幸福の完成は、 剃髪や袈裟が生き延びることよりも優先順位が高かったのだ。


4
仏法が広まるということは、仏教という一宗教が広まることを言うのではなく、すべての人類が執着を離れ、他の生命に慈しみを持つようになることを言うのだ。それを地球に戻って見届けることができた時に、自分は還俗することにしよう。そう考えて、時々、彼は地球に托鉢にやって来る。運河が無尽に走るバンコクの川沿いの家々に、小舟を漕いだ托鉢僧が来るように。

5
托鉢僧が行脚を始めてから随分の日が経った。日を追うごとに地球の人々は解脱の度合いを深め、仏法が広まるほどに地球上の出家率は低くなった。人々の解脱の具合が深まる程に、もはや人々は出家の体裁を必要としなくなったのだ。人類は進化する。仏法はあまねく伝わり、人々は悟りに満ちて、もはや僧侶も寺院もいらない。人類みなに智慧が生じたために、科学技術は自然に逆らわず、動植物を含めたすべての生命は尊重され、生態系は守られた。そう遠くない将来、托鉢僧が地球最後の僧侶となった時、その還俗式を以って、人類は新しい階梯を昇るに違いない。

…という風だったらいいんですが…

おしまい。
※ホームページ「アジアのお坊さん」本編も是非ご覧ください!!
※お知らせ※
タイの高僧プッタタート比丘の著作の
三橋ヴィプラティッサ比丘による日本語訳CD、
アーナパーナサティ瞑想坐禅16ステップの詳細な解説書である「観息正念」、
アーナパーナサティ瞑想坐禅16ステップの詳細な解説書である「観息正念」、