バンコクで「点と線」を読んだ話 | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

くどくて申し訳ないとは思いながら、又しても、昔読んだ本を今読み直すとどう感じるかと思って読み直す、但し自分が子どもの時に読んだ本はたいてい内外のミステリなのでというお話にお付き合い願いたいのですが、松本清張の基本的名作である「点と線」、初読は小学生の時に友達の親の蔵書を借りた時で、その後、お坊さんになってから、一度、この本を読み直しています。

タイでの修行中、バンコクのスクンビットにある古本屋で買って読んだのですが、旅行作家の前川健一氏が、バンコクの古本屋について書かれたエッセイの中で、この辺りで本を売るのは企業などの駐在員か、長期滞在型の個人旅行者・バックパッカーなどだろうけれど、ラインナップを見たら、海外で日本人がどんな本を読むかが分かって面白いと仰っておられます。

確かにビジネス書やアジア関係の書物の他に、純文学やミステリなどが多いのですが、この機会に読み直そう! と思うのでしょうか。私も三島由紀夫の「潮騒」なんかを、そこで買って読みました。もっとも、その時に読んだ「点と線」の印象は、意外と分量が短かったし、文章も読みやすかったという程度なのですが。

実は近頃、清張の初期の短編も少し読み直しました。「張込み」「顔」「地方紙を買う女」「鬼畜」「カルネアデスの舟板」「一年半待て」といった、もはや古典となった珠玉の名編の数々、大人になって読んだら、人情の機微や人間関係のしがらみがよく分かって面白いだろうと思ったのですが、これは狙い通り。

ご近所でよく聞くような日常の出来事が推理やスリルやトリックと結びつく上手さは清張ならではで、当時、推理小説ブームを巻き起こし、日本のミステリ史を塗り変えたのも、むべなるかなです。

今回読み返した「点と線」もまた然り。トリックが今となってはかなり素朴であるのに、現在読んでも、一向にその魅力は色褪せていません。抑えられた淡々とした筆致の中に叙情と人間の哀歓が潜む独特の文体であることも、大人になってから気づきました。

若い頃にいろんな書物を読むのも大事、そしてミステリは他の文学と違って、大人向けの高度な内容であっても、子どもでも読めるとは言うものの、清張作品に関してだけは、絶対に大人になってから読む方が面白いと断言できるように思います。


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