アイリッシュ「幻の女」のこと | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

昔に読んだ本を今読んだらどう感じるかと思って読み返す、というお話のシリーズなのだが、小中学生の時に読んだのは、たいてい内外のミステリなので、創元推理文庫かハヤカワ文庫を、最近よく読み直している。

小学生の頃に乱歩の大人ものの小説を読み始め、中学生くらいになるとそれ以外の日本の推理小説や海外の名作ミステリにも手を出して行くという順序は、私に限らず、わりとよくある読み方だと思う。

プロのミステリ作家の方ですら、何歳の時にはもう何々の作品を読んでいて、ということを、こっそり自慢げに書いておられたりするが、プロであれ、一般の読者であれ、ミステリという文学に関してだけは、年少の読者が大人向けの小説を読むのは簡単なのにと思う。

で、トリックや謎解き主体の海外本格ミステリを読んだ後、サスペンスと詩情の作家、ウイリアム・アイリッシュの作品に夢中になるというのもまた、比較的、定番のコースだと思うが、私がアイリッシュの名作「幻の女」を読んだのは、中学生くらいだったと思う。

ところで、私はクリスティの「アクロイド殺害事件」「そして誰もいなくなった」「オリエント急行殺人事件」、クイーンの「Yの悲劇」、ルルーの「黄色い部屋の秘密」など、並み居る名作を、すべて結末を知った上で読んだのだが、いくら名作だから結末を知ってから読んでも楽しめるとは言うものの、どうしてもそうした作品の評価は低くなる。

「幻の女」は超有名作でありながら、珍しく結末を知らないまま読んだので、当時、大変感動したのだが、さて、今回読んでみたら、昔気付かなかったプロットや細部の技巧の巧みさには感心したものの、小説としてはさほどにも感じなかった。昔読んだアイリッシュの短編集や、長編でも「夜は千の目を持つ」などの方が、余程面白かったような気がする。

では、確認のために他のアイリッシュ作品をこの際、読み直してみようかと思って調べたら、6冊あった創元推理文庫の短編集は現在、「ニューヨーク・ブルース」以外、長編も含めてすべて絶版。「ニューヨーク・ブルース」だけでも書店に買いに走るべきかを、目下のところ、思案中…。

                           おしまい。


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