よそのお寺さんと議論したことなのだが、四十九日を過ぎた本位牌、いわゆる黒位牌の戒名の後に、「霊位」という文字が刻んであるのは正しいのか、という話。
世間一般でも、香典の表書きに中陰の間(四十九日まで)は「御霊前」と書き、以後は「御仏前」と書く、といった仕来りがあるが、四十九日以後に「霊」という文字を使うのはおかしいという考えがある。
ただ、実際は「○○之霊位」と刻んである黒位牌を見かけることもあるし、供養や回向の文句の中で、四十九日以後であっても「霊位」という言葉を使っていることはあるのだが、そもそもそれ自体が間違いなのだろうか?
四十九日以後に「霊位」を使っても良いという意見も、使うべきではないという説も、明確な根拠と共に述べてある資料は、これと言って見当たらない。
ただ、天台宗に限っては「天台常用法儀集」という、宗派の公式な作法集の中で、年回法要すなわち四十九日以後の供養の文句に、亡くなった人を指す言葉として「霊位」が使われている用例をいくつか見つけた。
「霊位」と同等の意味で、「霊儀」「幽儀」などという言葉も見える。また、四十九日以後にも使われる「霊」を含む言葉として、「精霊」とか「三界萬霊」などがある。
では仮に、四十九日以後に「霊」とか「霊位」という言葉を使うのは間違いでないとして、本位牌に「霊位」という言葉を刻むことについてはどうなのかなのだが、これはもしや、俗名を位牌に刻む場合、或いは特殊な例ながら、昨今増えているらしいペットの名前を位牌に刻む場合などの、戒名がない場合に「○○之霊位」と付いている場合が多いのではないか、戒名がある場合は、下の「置字」は、「位」という文字だけの方が、正式なのではないかと思い至った。
ただ、他宗では「霊位」について違う考えが明確にあるかも知れないし、そもそも「霊」という言葉を使わなかったり、「四十九日」「中陰」に関する考え方自体が違う宗派もあるはずなので、ここから後はお互いに知り合いの他のお寺さん方にも聞いてみましょうということで、今回の議論は一応の決着を見た。
⇒その後、実際にお聞きして、以下の通り、新たにブログを投稿しました(2015年2月27日追記)。
※ ※ ※
位牌に彫ってある「霊位」という文字についてだが、四十九日を過ぎた後に、戒名の下に霊位という文字が付いているのは間違いではないのか、そもそも霊位という言葉自体を使うことの是非がどうなのか、という話を先日、書かせて頂き、各宗派の御僧侶の意見が聞けるなら、と思ったところ、複数の方からの回答を得た。
まず、天台宗では、位牌はともかく、供養・回向の文句に「霊位」という言葉が普通に使われている。私としては、生きている方に対して「様」を付けるのと同じように、故人に対して敬称を付けている感覚で、回向の文句の中でなら、使っても良いというくらいの意見だったのだが…。
同じ天台宗の方に聞いてみたら、読経を聞いている施主に聞かせる意図で、回向文・風誦文の中でなら、場合によっては「霊位」という言葉を使用するが、位牌には基本的に「霊位」は使用しない、とのこと。「霊位」に限らず、四十九日後に「霊」という文字が入ることには、やはり多少の違和感があるとのことだ。
浄土真宗では位牌・四十九日・中陰・極楽・死後観・法名(真宗では戒名と言わない)など、すべてが他宗と違っているだろうと予測したのだが、真宗以外の他宗派では、一般的にどう考えているか知りたくて、曹洞宗のお坊さんに直接、お尋ねしてみた。
そうしたら、結論から言えば、位牌の「霊位」に限らず、「霊」という文字そのものを基本的に使用しないようにしている、とのことだった。
さて、問題の浄土真宗。お聞きした御僧侶の方の回答では、真宗では「霊位」は一切使いません、とのこと。誠に明確だ。
位牌に関しては、主に昔、仏壇屋さんがついつい勝手に「霊位」という字を入れてしまうことはあったそうな…。
ついでに教えて下さったことだが、現在の宗派の公式見解として、法名の下に「信士・信女」などの位号も付けない、また「釈尼」の「尼」も使わない、黒位牌も作らない。
また、これはお寺によってだが、黒位牌を作らないだけでなく、葬儀で使う白木位牌も和紙を貼って法名を書き、白位牌はあくまでも和紙を貼る台であって、「位牌」ではないということ表現する寺もあるとのことで、なるほど、徹底的に理路整然だ。
という訳で、各宗派の、もっと多くのお坊さん方にお尋ねすれば、微妙に違う見解もあるのだろうけれど、おおむね結論として、宗派によって考え方自体の違いは様々あれど、仏教の供養において「霊」や「霊位」という文字はなるべく避けるべきで、特に位牌の戒名・法名の下に「霊位」という文字を彫るのは、はっきり言ってしまえば、よろしくないということのようだ。
※インド日本寺駐在同期のH師を始め、ご回答頂いた御僧侶各位に、厚く御礼申し上げます。 合掌
是非ご覧ください!!
※お知らせ※
タイの高僧プッタタート比丘の著作の
三橋ヴィプラティッサ比丘による日本語訳CD、
アーナパーナサティ瞑想の解説書「観息正念」、
アーナパーナサティ瞑想の解説書「観息正念」、
並びに仏教の要諦の解説書「仏教人生読本」を入手ご希望の方は
タイ プッタタート比丘 「仏教人生読本」「観息正念」改訂CDーR版 頒布のお知らせをご参照下さい。
タイ プッタタート比丘 「仏教人生読本」「観息正念」改訂CDーR版 頒布のお知らせをご参照下さい。