先日、知り合いのお坊さんがタイを訪れ、バンコクの日本人納骨堂を参拝したというお話を聞いたので、ちょっと思い出話を書かせて頂くことにした。
ワット・リアップ寺院、正式名称をワット・ラチャブラナというお寺の境内にある、タイの日本人納骨堂については、タイ国日本人会のホームページもあるし、「地球の歩き方」にも載っているので、訪れた旅行者の方のブログもたくさんあるが、私も以前、ホームページ「アジアのお坊さん」本編の「日本人上座部僧」の中で、以下のように紹介させて頂いた。
「バンコクにあるワット・リアップという寺には日本人納骨堂があり、高野山真言宗のお坊さんが任期3年を目処に上座部僧として得度し、管理に当たっている。この寺は旧日本軍の辻政信元大佐が僧侶に変装して潜んだことでも知られており、馳星周氏の小説「マンゴー・レイン」(角川文庫)にも登場する。辻政信に関しては「辻政信と七人の僧」(橋本哲男・光人社NF文庫)が入手しやすい。」
反対に、入手しにくい本としては、「泰国日本人納骨堂建立50周年記念誌」がある。アジア関係や仏教関係の図書館にしか置いていないと思うが、この本が発行された1987年当時までの、在タイ日本人事情の一端が伺える書物だ。
ちなみに小説「マンゴー・レイン」の初版は、2002年。当時、馳氏がバンコクを取材されたことと思うが、登場する管理僧の方が、あんまり格好よく描かれていないのが、ちょっと気になる。
「タイ現代情報事典」(ゑゐ文社)は、とても良い本なのだが、こちらは現在、品切れらしい。この本の28頁から29頁にかけて、日本人納骨堂とタイのお葬式についての項目がある。「葬儀の時、日本人会に頼めば、日本人僧侶を紹介してくれる」という細かな解説が、在タイ日本人の方々が作った事典らしくて、面白い。そう言えば、私が数年前に、久しぶりに参拝した時も、当時の管理僧の方が、ちょうど日本人のお葬式に出かけられるところで、長くお話できなかったことがある。
さて、それよりずっと以前、私がタイのワット・パクナムで修行中、この納骨堂の管理僧だった方は、既に任期の半ばくらいでいらっしゃったので、タイでの比丘生活について、その方から色々とご教示頂いたものだ。
確か、ワット・パー・スカトーの日本人上座部僧のプラユキ・ナラテボー師と初めてお会いしたのも、このお寺でだった。その頃の私は、まだ何にも分からずに不安だらけだったものだ。そして、タイでの修行を終えた後、インドのブッダガヤにある印度山日本寺に赴任し、そこで日本人上座部僧の三橋ヴィプラティッサ比丘と出会い、師の口からプッタタート比丘の名を何度もお聞きし…と、現在に至るあれこれが、知り合いのお坊さんから、タイの日本人納骨堂の名前を聞いた途端に懐かしく感じられ、こうして思い出話を書かせて頂きました。
※2020年10月2日付「日本人比丘よもやま噺」もご覧ください。