インドネシアのサテーを始めとするアジア各国の串焼きと、日本独自の焼き鳥文化の比較考察ということなら、いっそ「アジアの焼き鳥」とでもすれば、タイトルの坐りが良かったのだろうけれど、いかんせん、大阪の串カツとタイの屋台についての私的な思い出話を書きたいだけだったので、「アジアの串物」という、苦しいタイトルに落ち着いた。
さて、地方で「大阪風!!」などと銘打たれたお好み焼き屋やたこ焼き屋を見かけると、関西人には大変、滑稽に感じられるのと同様に、「大阪名物 串カツ!! ソース2度漬け禁止!!」などというお店の看板を、関西以外の場所で見ると、とても変に思う。
串カツを食べたことのある関西人にとっては、それほど驚くことでもない当然のルールが、さも自慢げに、ひけらかすべきご当地ルールのように扱われていることへの違和感だ。
子供の時、近所の夜店に串カツの屋台があって、子どもの小遣いでは少し高めの値段設定だったから、串カツを1本食べたら、他の屋台で遊べなくなる。しかし串カツは普通のフライや天ぷらにはない、えも言われぬおいしさ、ああ、今日は串カツを食べるべきか否かと、子どもたちは真剣に煩悶した。そして、何も知らずにソースを2度漬けしては、テキ屋の怖いオッサンに怒鳴られて、我々は2度漬け禁止ルールを小さな頃から、身を以って叩き込まれたものだ。
お話変わって長じては、お寺の子でもないのにお坊さんになった私は、その後、タイで修行することになり、大抵はお寺で大人しくする日々だったのだけれど、たまに遠方に出かけて帰って来る時、めったに通らない夜の町の屋台から流れて来る、串物と炭火の香ばしい香りに悩まされた。
ご存知のように南方上座部仏教のお坊さんは、正午以降、翌朝まで食事を取ってはいけない戒律だから、夜の巷で買い食いすることなどは、何があっても許されない。
その後、日本に帰ってから何年も経って、一旅行者として久しぶりにタイを訪れた時、何が嬉しいと言って、屋台で好きなものを買って食事ができた事が嬉しい、などと言うと、食への執着を建つために、午後不食の戒律があるのであって、せっかく上座部比丘修行という稀有な体験をさせてもらっておいて、お前の修行はそんな程度かとお叱りを受けたら一言もないのだけれど、でもやっぱり、食べたい時に食べたいものを食べられるのは、幸せだなあと、今、思う。
おしまい。