「お坊さん」のことを英語で「monk」と言うが、これは本来、キリスト教の修道士を指す言葉だ。私がお坊さんになってすぐの頃、本山に上がる前の京都での小僧修行中、日本語ペラペラの、日本宗教を研究している西洋人の方が参拝に来られたことがある。
その頃、「お坊さん」を英語で何と言うのか知らなかったので、「修行僧」を英語で何と言うのかと聞いてみたら、「monkと言います」と言った後にその人はしばらく考えて、「a full time monkです」と仰った。私は意味が分からずに、「お坊さん」のことを「フルタイム モンク」と言うものだと思ったのだが、要は普段は普通の家庭生活を送っていて、儀式の時だけ衣を着たりするような、パートタイムの僧侶ではないという意味で、修行僧のことを、そう表現してくれたのだろうと思う。普通にお坊さんを英語で言う時は、「monk」だけで十分だ。
さて、今度は本山での修行を終えて、ある祈願寺で役僧として修行させて頂いていた時の話。やっぱり日本語に堪能な、若い西洋人研究者が来られた時に、私が神職の勉強をした後にお坊さんになったという自分の経歴を、「以前はShinto priestだったけど、その後、Buddhist monkになった」と表現すると、「どうしてpriest(高僧)からmonk(修行僧)に降格したんですか?」と聞かれて、priestとmonkという2つの英語のニュアンスの違いを、初めて理解したものだ。
因みにpriestという英語は、キリスト教の司祭を指す場合と、キリスト教以外の僧や祭官を指す場合があるのだが、仏教に関しては、高位の僧のことを、high priestと表現したりもする。
段々と仏教が欧米を含む世界中に認知されて来ている昨今、英語でもお坊さんのことを「Bhikkhu」と呼べば良いとも思うけれど、とりあえずは普通に仏教のお坊さんを英語で呼ぶ時は、広く認知されている「monk」という言葉を使っておくのが無難だろう。
インターネットなどによれば、「monk」の語源はギリシャ語の「Monachos」(モナコス・独りで生きる人)なんだそうなんだが、「大乗仏教興起時代 インドの僧院生活」(春秋社)という本には、ギリシャ語の「monos」(一人)という言葉が語源だと書いてあって、さらにこの本では仏教の「Bhikkhu」(比丘・修行僧)とキリスト教の「monk」(修道士)の違いについても詳しく考察してあるので、大変に興味深い。
※ところで私は、この文章を書くためにいろいろと調べてみるまでは、猿を表す「monkey」という言葉は、きっと「monk」が語源だろうと思っていた。独りであれ、群れであれ、森の中で飄々と暮らす類人猿やその他の猿たちが、修道士か修行僧のようだから「monkey」と言うのに違いないと本気で思っていたのだが、どうやら全く関係ないんだそうな。
※「住職」は英語で「abbot」と言いますが、これはキリスト教組織の用語からの援用です。「住職を英語では何と言うか」ということを検索される方があるそうなので追記してみました(2017.7.12)。