今回は差し障りのないように、架空のおとぎ話ということで…。
● ● ●
インドの僧院に止宿中、旧市街にある病院から、昨夜、日本人旅行者の女性が体調を崩して運び込まれたから、身元を引き受けてくれとの連絡があった。
僧院長の命を受け、病院にたどり着いた私に、旅行者の女は、昨日、自分の世話をしてくれたインド人が、何かの手違いで警察に連れて行かれたから、救出に立ち寄ってくれと奇妙なことを言う。
行ってみると小さな檻の中に、子どもを含むたくさんのインド人たちがひしめいていて、女の知り合いであるインド人の男が日本語で言うことには、「センセイ、見てよ、こんな小さな子どもまで牢屋に入ってるよ、これがインドだよ、助けてよ、早くここを出してよ」。
さて、行き暮れて難渋する旅人に慈悲の手を差し伸べるのも、仏の教えに適うことかと考える僧院長の指示で、女を併設の巡礼宿で休ませて様子を見た。ところが次の日になると、女は牢を出てきたインド人の男を寺の待合に呼び寄せて、高らかに談笑している。
後で聞けば男が牢に放り込まれたのも、酒を飲みながら病院で女を看病していて警察に通報されたのだとか。僧院長と相談の上、女には、丁重に下山を願い出た。
日本を離れて久しい僧院長が、近頃の日本人女性はみな、あんな風なんですか? と私に尋ねるが、私には答えるすべもなく、そしてその後の女の消息も、杳として知れない。