「スッタニパータ」と「ダンマパダ」は、それぞれ岩波文庫の「ブッダのことば」、「真理のことば」として、日本人にもよく親しまれているお経だ。岩波文庫の解説には、スッタニパータの方が特に古いようにも、或いはどちらも同じくらい古いようにも書かれているが、さて、一体、2つの内の、どちらがより古いお経なのだろうか?
さて、以下に書くことは、何ら文献学的根拠のない、単なる私の想像もしくは推理に過ぎないので、ご了承を。
スッタニパータに含まれる、「慈経 Metta sutta」、「吉祥経 Mangala sutta」、「宝経 Ratana sutta」などは、現在でも上座部仏教国において、頻繁に用いられる小経だ。一方で、ダンマパダの方は、仏典の真髄として、熱帯アジア諸国を旅しているだけでも、あちこちの場所で、その各句を目にする程だが、日常の勤行の読誦には使用されない。 ダンマパダに含まれる、「恨みを以って怨みに報いれば」の句や、悪いことをせず、良いことをすれば心が浄まるという、いわゆる「七仏通戒偈」などの超有名句は、スッタニパータには見えない。また、スッタニパータとダンマパダに共通する句は、バラモンに関する一連の句以外は、案外、少ない。
スッタニパータには、ルンビニにおけるブッダの誕生、ブッダガヤでの瞑想中の挿話、王舎城(ラージギル)におけるビンビサーラ王との出会いなど、仏伝すなわちブッダの伝記に関する句がいくつか出てくる。
ダンマパダには、四諦、三法印、五戒といった、仏教の基本的教理が、スッタニパータよりも、よく整理されて網羅されている。
以上のような理由から、まず、仏伝、小経、その他、重要と思われた句が集成されて、その名の通り、スッタニパータ(経集)ができ、その後、そこに洩れた重要な句を網羅し、整理、洗練する形で、根本経典的なダンマパダ(法句)ができたのではないだろうか?
ちなみに、仏教の教理を一句で言い尽くしているとも言える、「諸行無常偈」に関しては、スッタニパータとダンマパダのどちらにも含まれておらず、その後に出来た、サンユッタ・ニカーヤ(岩波版「神々との対話」「悪魔との対話」)や、マハパリニッバーナ経(岩波版「ブッダ最後の旅」)、並びにダンマパダのサンスクリット語バージョンであるウダーナヴァルガ(岩波版「感興のことば」)には見えるから、これらはダンマパダよりは、後にできたのだろう。
というわけで、多分、スッタニパータの方が、ダンマパダより古いのではないかと思います。
おしまい。
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