アジアの経行(きんひん)…ヴィパッサナ式の歩く瞑想法とブッダガヤの経行石 | アジアのお坊さん 番外編

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旅とアジアと仏教の三題噺

 坐禅には経行(きんひん)と言って、坐禅中に立ち上がって歩く作法があり、臨済宗と曹洞宗では少し方法に違いがある。

 

 天台宗の法儀集には、経行には緩中急あり、単なる行道ではないと書いてあるが、実際に天台のお寺で坐禅止観中に経行することは、滅多にないのが現状だ。

 

 テラワーダ仏教におけるヴィパッサナ瞑想には歩く瞑想法がある。体験したことのある人には一目瞭然だと思うが、中国や日本の坐禅における経行は、ブッダも行っていたこの瞑想法が、後に形を変えたものだ。

 

 この瞑想法を原始仏典ではcankamanaチャンカマーナと呼び、それを漢訳では経行と言うのだが、中村元博士ですら、これを坐禅の中休みに行うそぞろ歩きだと解説している。

 

 禅宗では、経行は動中の工夫だとか歩行禅だと言う人もあるにはあるが、多くは何も説明していなかったり、足を休めるためのものであって、坐禅とは違うなどと解説していたりする。

 

 ところでインドのブッダガヤの大塔の横には、ブッダが悟りを開いた後に経行した跡だという石がある。インドの仏跡について解説するのに現地の英語案内看板を翻訳しているだけの人が意外と多くて、経行石についても「ブッダはチャンカマーナと言って、ここを行ったり来たりした」などと書いてある。確かに歩行瞑想中に行ったり来たりしたわけだから間違いではないかも知れないが、やはりある程度の基礎知識というものは、持っておいた方が良いのでは?