インドのブッダガヤにある日本寺附属の幼稚園、菩提樹学園は現地の子供を対象に、インドの事情に即しつつ、最新の保育理論に基づいた教育を無償で施している。これだけ地に着いた保育が出来ているのは、ひとえに昨年亡くなられた樫井ともゑ先生の努力の賜だ。
樫井先生が日本仏教保育協会の派遣でブッダガヤに来られたのは、私がタイでのテラワーダ修行を終えてインドの日本寺に駐在したばかりの頃だった。当時の駐在主任はスリランカで得度した日本人上座部僧で、女性との接触については厳しい戒律があり、僧俗の区別に関しても上座部式を貫いていた。大乗仏教僧として赴任してはいたが、タイから帰ったばかりでテラワーダ式に違和感のない私と、その駐在主任の二人しか日本人がいない異国の寺で、樫井先生にはずいぶん気苦労をおかけしたことと思う。
それでも先生はその後、折に触れ、本当に折に触れ、懇切な便りを下さった。絶えまぬ努力で菩提樹学園のみならず、日本寺にとってもなくてはならない人材となり、卒園生を対象にしたタブラ教室も軌道に乗せて、ようやく形が見えてきましたと最近は仰っていたのに、2008年の暮れに、突如、病いのために亡くなられた。
3年ほど前に久しぶりに日本でお会いした。インドで初めてお会いした時、私は仏教徒じゃありません、保育のために来たんですと笑って話しておられたのが、もうこの活動を極限まで進めるには、私が得度するしかないと思う、その時にはよろしくご協力くださいと、やっぱりあの笑顔で明るく仰っていた。
慎んで哀悼の意を表します。