アジアの十善戒…悪口、愚痴、馬鹿 | アジアのお坊さん 番外編

アジアのお坊さん 番外編

旅とアジアと仏教の三題噺

 バンコクの日本人会納骨堂があるワット・リアップというお寺でテラワーダ僧をしていた日本人のお坊さんが、タイは戒律が厳しいという話になる度に、戒律なんて十善戒を守ってればいいんだとよく言っていた。その人は真言宗から派遣されていたから、真言宗の日常勤行儀でよく唱える十善戒のことが、ことさら頭にあったのだろう。

 十善戒は出家・在家に共通で、大乗仏教・上座部仏教のどちらにも知られているから、確かに全仏教徒が等しく守る戒律としてふさわしいかも知れない。特に上座部の五戒や十戒と違って飲酒を禁じる条項がないから、酒好きな日本の仏教徒には持って来いだ。

 不殺生…殺してはいけない。
 不偸盗…盗んではいけない。
 不邪淫…配偶者以外と男女関係を持たない。
 不妄語…嘘をつかない。
 不悪口…汚い言葉、悪い言葉を口にしない。
 不両舌…悪口、陰口を言わない。
 不綺語…冗談を言わない、ふざけない。はしゃいでいる時、たしかに心は気づきから離れる。
 不貪欲…欲を持たない。
 不瞋恚…怒らない。
 不邪見…迷いを持たない、いらいら、うじうじ、はらはらしない。

 悪口(わるぐち)という現代語と同じ漢字だが、不悪口戒(ふあっくかい)とは罵詈雑言するな、汚い言葉を使うな、という意味。不両舌(ふりょうぜつ)の方が他人に対する悪口(わるぐち)を指すのだが、これをよく「二枚舌を使わない」などと解説してあるので訳がわからなくなる。

 邪見は正見の反対で、迷いや愚かさを指す「愚痴」のこと。「愚痴を言う」という現代語のもとだが、いらいら、うじうじ、めそめそ、そわそわ、どきどきといった、欲と怒り以外の一切の悪感情を含む。これらを離れようと努力すれば、自然と心は浄まる。

 「愚痴」はパーリ語で「moha」という。この言葉の音訳が漢字の「莫迦(まくか)」で、当て字が「馬鹿」という言葉だ。「馬鹿」とはすなわち、仏教語の「愚痴」のことなのだが、こんな仏教一口メモ的な豆知識をなぜ書いているかと言うと、昔、仏教一口メモ的なコラムでこのことを知った時、大変感心したからです。