玄侑宗久師も山折哲雄氏もスマナサーラ長老には歯が立たない。長老が「般若心経は間違い?」(宝島社新書)の中で批判する日本の般若心経解説本同様、日本の仏教者はわかったようなことをもっともらしく書くばかりだから、読者はわかったようなつもりになったり、わからなくて仏教書を投げ出したり、おんなじ所を曖昧にぐるぐる回り続けることになる。それに引き換え長老の言葉はいつもながら明晰だ。
確かに長老が言うように般若心経自身にも曖昧な点はある。でもそれを日本の仏教者のように「色即是空。ほら、仏教ってすごいでしょ、びっくりした?」的に曖昧にかましているだけでは駄目なのだ。日本だけでなく、台湾でも韓国でもチベットでもこのお経が尊ばれているのはなぜなのか。映画「リトル・ブッダ」や「春夏秋冬そして春」にも使われるほどポピュラーなのはなぜなのか。我々は深く掘り下げなければならないのではなかろうか。
というわけでダライラマ14世の「ダライラマ 般若心経入門」(春秋社)だ。そのとっつきやすいタイトルとは裏腹に、ブッダ自身の教えと自身の瞑想体験から般若心経を解説するこの本は、同じ大乗仏教の立場を取りながら、日本の心経本とは大きくその内容を異にする。日本の心経本に飽き足らなかった読者や、何かと曖昧にお茶を濁している日本の仏教者はもちろんのこと、できるならばスマナサーラ長老ご自身にも是非読んで頂きたい一冊だ。