AMERICAN HISTORY X (1998)
1998年の作品ですが日本では一年四ヶ月後の2000年に公開されて映画館で観ました。
何か強烈に胸に残るものがあったのでDVDは買っていましたが、
人種差別を真正面から描いた重い作品ゆえ、なかなか家で観る気が起こらないまま十数年が過ぎていました。
しかし、人種差別的な発言を公然とするトランプ氏がアメリカ大統領になることが決まった時、
本作のことが頭をよぎりました。
ナチスのマークのタトゥーを入れたエドワード・ノートンのビジュアルとタイトルの響きから
過激な作品を想像する方もいらっしゃるでしょうが、
この作品は白人による黒人への人種差別が生み出す悲劇を丹念に描いています。
回想シーンをモノクロにしている演出が非常に分かりやすく、かつ 映像に雰囲気が出てていいんですが、もしかしたら【白と黒】しか映らない映像で白人と黒人の対立を暗示したのかも?、と
今回初めて思いました。これ書きながらですが。
映画のブログを書いてたら、書きながら(あっ! これはそういうことやったかも?!)とか色々気づけたりするのが面白いです。
そう考えると、主人公デレクの弟ダニーが、校長から命ぜられた兄デレクについてのレポートを書くことによって、自分たちが行ってきた人種差別的な行為を冷静に振り返っていき、その行為の愚かさに気づいていく様はとても説得力があるといえます。
そのダニーを演じたエドワード・ファーロングは私生活での度重なるスキャンダルで俳優としてのキャリアは停滞していますが、存在感のあるキャラはやはり素晴らしいです。
他の著名な俳優がいくらジョン・コナーを演じてもしっくりこないのは、『ターミネーター2』での彼の印象が鮮烈過ぎたからやと思いますね。
『ファイト・クラブ』も凄まじかったノートンの素晴らしさは言わずもがな。
過激な人種差別主義者としてのインパクトのある姿と、
大切な家族を守ろうとする優しい青年の表情という真逆の顔を見事に見せてくれます。
最初は、刑務所暮らしにウンザリして差別主義者のグループから脱会をしようとしたのかと思ったら、
実はその刑務所の中で 彼のそれまでの気持ちを変える出来事があったことが丹念に描かれるので、
真逆の人間になる展開もとても納得して観れました。
真逆の人間になる、というよりは本来の彼に戻ったということです。
刑務所の中では白人より黒人が上。
そんな中でたまたま一緒に仕事をするようになった黒人ラモントと一対一で付き合っていくうちに感じる、肌の色など関係ない人間同士としての絆と、ラモントが不当に長い懲役を課せられている事実から見える差別社会の現実。
普通の生活に戻ろうと思っても、過去に犯した過ちからは簡単には逃れられないという事実。
本作が真に素晴らしいのは
人種差別の問題をあぶり出すだけにとどまらず、
怒りの感情は負の連鎖しか生み出さないという真実を、観た人間に示してくれるところ。
デレクの行く末は気になりますが、その後の行動は、
ボクら観た者に託されたんやと思います。
「憎しみとは耐え難い重い荷物。
怒りにまかせるには人生は短すぎる」
社会の分断が鮮明になっている今こそ たくさんの方に観て欲しい映画やと思いました。