2023年4月23日の日曜日、奈良県御所市大字櫛羅にある千代酒造さんの「春の利き酒会2023」に伺いました。近鉄奈良線御所市の駅に降り立ち、20分ほど西へ歩くと新緑の葛城山が近づいてきます。

 

 ふと、交差点で見上げると信号機の横に櫛羅東の表示が、千代酒造さんへ近づいてきました。

 

板塀に白い壁、甍の屋根が美しいです。

 

 

入り口脇には、石屋の中にお地蔵さんが祀られていました。

 

千代酒造さんに関しては、本ブログ2021年1月15日の記事を以下再掲します。

 

この日本の山岳信仰である修験道の開祖と言われ、天狗ともいわれる役小角(役行者、役優婆塞)の生まれた地、葛城山の麓、奈良県御所市に千代酒造があります。

 千代酒造さんは、日本酒は”米の酒”であると同時に”水の酒”であるという蔵のこだわりがあり、葛城山の恵みである地下水を汲み上げ、仕込み水につかっています。良い酒を造るためには、良い米を使うという願いから1996年酒蔵の周りで自作の山田錦を育て始めたそうです。水と米ともにこの土地の恵みを生かす酒造りを続けることを願っているどうです。

 

 良い日本酒は、美味しく、心地よい酔いが人の心身を癒し、そして和らいだ心持ちになると、人と人との良い『縁』を育みます。お酒造りは、人の手仕事によるものでありながら、微生物の力で醸されています。従って、自然と同じく人間の都合でコントロールできるものではなく、だからこそ、千代酒造さんはそこに浪漫を感じているのだそうです。

 現代の醸造技術は、人の力でほぼ思い通りの酒を造れる領域にまで到達しつつあり、それゆえに、絶えず進化し続けながら、自然の力を生かした農業と醸造に千代酒造さんは取り組んでいきたいと考えているのだそうです。

 

酒蔵の見学をしながら、もう何度もお会いしている堺社長のお話を思い出しつつ、楽しい時間を過ごしました。

 

 

 試飲をする中で、ようやく今回プレゼントのピンバッジのモデルとなったお酒が現れました。「純米大吟醸 櫛羅 生酛仕込一火原酒」、ピンバッジを眺めながらいくらでもすいすい飲めるお酒です!

 

「櫛羅」も特殊な地名で、こちらも以前のブログ記事を再掲します。

 

 蔵の周りの田んぼのお米だけでお酒を造ったら美味しい酒ができるのではないか?という興味が湧き、自社田で山田錦を栽培したところから『櫛羅』のお酒は始まったそうです。

 

 千代酒造さんは葛城山の山裾「櫛羅」の地にあり、この地の気候風土、砂質で肥料も水も抜けてしまう田圃で育つ山田錦、この地で汲み上げる井戸水を組み合わせて、この地ならではの味わいを大切にして醸されています

 

 「櫛羅(くじら)」という地名は難解地名として知られ、大阪府の最高峰「大和葛城山」標高959.2mの奈良県側にある葛城山ロープウェイ登山口駅から10分程の所に「櫛羅の滝」があります。

 

 そこに御所市観光協会設置の「櫛羅」の地名説話を紹介した説明板があり、「弘法大師がこの地を訪れ、天竺のクジラの滝によく似ているので、供尸羅(クジラ)と名づけた。この供尸という字は「供に屍」と書くので良くないといって領主の永井信濃守が供尸の二字を櫛と改めたという。」とあります。

 

 また、櫛羅(くじら→くじく→くずれる)は窪地や崩れたをあらわす崩壊地名の説もあり、これは葛城山系の湧水や脆い花崗岩地質と「櫛羅の滝」周辺の崖崩れの痕跡などからもうかがえるようです。櫛羅の櫛(クシ)は奇、つまり霊異の力を表す古語で、羅(ラ)は接尾語とみると、霊異の神ということになり、櫛羅(クシラ)は鴨山口の神異を崇めた聖なる地、奇邑(くしむら)であるとされます。

 

 「櫛」には、「霊妙なこと、不思議なこと」という意味の「奇(くすし)」や「聖(くしび)」との音の共通性から、呪力を持つもの、魂の宿るもの、頭に飾るものであることから、自らの分身として旅立つ人に手渡す風習があったそうです。

 

 『古事記』には、伊邪那岐命が、妻の伊邪那美命が差し向けた黄泉醜女から逃れるために、櫛の歯を後ろに投げ捨て逃げることができたという記述があります。

 

 同じ『古事記』には、大蛇退治に行く須佐之男命は櫛名田比売を櫛に変えて自分の髪に挿したとあります。

 

 天皇家では、斎宮として都を旅立つ皇族の少女を見送る儀式で、「別れの櫛」を手ずから髪に挿し、別れの言葉をかけました。斎宮は身内か天皇に不幸があるまで都に帰ることはできなかったのです。

 

 櫛を挿す儀式には俗縁を断つという意味があり、逆に成人式に当たる「髪上げの儀」では、大人社会への仲間入りの象徴として櫛が少女の髪に挿されました。そして、この儀式の直後に婚礼を済ませることもあったそうです。

 

古来より「櫛」という名を持つ神々がいます。

倭大物主櫛甕魂命(三輪山の大物主・幸魂奇魂)

天照国照彦天火明櫛玉饒速日尊(饒速日命)

熊野大神櫛御気野命(素戔嗚尊と言われています)

櫛名田比売

 

いずれの神も高天ヶ原を追われたり、神武東征に敗れ国譲りしたり、朝廷に逆らった神々ですが、今では、立派なお社に祀られています。

 ひょっとすると、櫛羅の地は、人々と別れて鎮め祀られる地に向かう神々を安らかにお送りする地だったのかもしれませんね。

 

 この地で醸される酒「櫛羅」はそんな神々に捧げる酒であり、旅立つ人と交わす盃を満たす酒として最も適したお酒なのかもしれません。

それにしても、この櫛羅ピンバッジ、ブルーのボトルはラッカーで仕上げ、ラベル部分と肩ラベルの文字まで細緻に再現されていて、堺社長いいできですねぇ。

まいりました。