2023年3月18日に開催された第17回伏見の清酒 蔵出し「日本酒まつり」に参加してきました。

 伏見酒造組合と伏見観光協会の共催により、事前予約制でしたが、御香宮神社と伏見夢百衆の2会場で、伏見17蔵元の日本酒を利き酒できます。午後一番の予約だったので、お昼からのんびりと出かけました。

 大阪の十三近くに住んでいると、「日本三大酒処」の灘と伏見へは1時間以内で行けるのが嬉しいですね。西条へは新幹線で2時間+在来線30分くらいかな?

 

 伏見は、江戸時代には淀川水運水運の交通の要衝として栄えた京都の南の玄関口で、薩摩藩の有馬新七らが上意討ちにあった寺田屋騒動や坂本龍馬で有名な寺田屋事件の跡地があります。

 

 私が利き酒の予約したのは御香宮神社の会場で、安土桃山時代には、豊臣秀吉が桃山丘陵に伏見城を築き、晩年を過ごしていますが、御香宮神社付近はその頃の福島正則の屋敷があったと言われ御香宮神社の表門西側に、2014年9月「黒田節」発祥を示す駒札が建てられています。

 「酒は飲め飲め飲むならば、日の本一のこの槍を、飲みとる程に飲むならば、これぞ誠の黒田武士」

 この逸話は、貝原益軒の「黒田家臣伝」がもとになっています。

 1596年(文禄5年)正月、酒豪で有名な母里太兵衛友信は、主君黒田長政から福島正則のもとへ使いに出されますが、酒の上での過ちを懸念し、酒を飲むなと命じられていました。訪れると「良い飲み相手が来た」と正則に酒席に呼ばれ、母里太兵衛にも酒を勧めます。

 主命により断り続けていると、大盃に注がれたお酒を前にして「黒田の者は、これしきの酒も飲めぬのか」「これを飲めば望みの褒美を取らす」と言われ、友信は正則が豊臣秀吉から下賜された自慢の槍を指し、「あれをいただけるなら」と酒を飲み干し、その槍「日本号」を貰い受けます。

 翌日、酔いがさめて青くなった福島正則は、使いをやって槍を返してくれるよう頼みましたが、友信はこれを断り、のちの朝鮮出兵に日本号を持参して武功をあげたそうです。

 

 日の本一のこの槍「日本号」は、柄を含めた総長が321.5㎝、刃の長さ79.2㎝で、「呑み取りの槍」とも称され、現在、福岡市博物館に収蔵されています。

 

 伏見には、桃山丘陵をくぐった伏流水「伏水」が湧き出る豊かな水に恵まれたところで、その水はカリウム、カルシウムなどをバランスよく含んだ中硬水は酒づくりに適しており、発酵がゆっくりと進むために酸は少なめで、なめらかできめ細かい淡麗な酒質で、「灘の男酒」といわれる宮水(硬水)で仕込んだ酸の多い辛口に対して、「伏見の女酒」とも呼ばれています。

板塀とレンガ煙突が美しい伏見の酒造の蔵「松本酒造」

 

 唎酒は、伏見17蔵元の日本酒で、以下記憶に残ったお酒を紹介します。

㈱北川本家 冨翁 大吟醸 たれくち生原酒

 

㈱京姫酒造 京姫 祝 純米大吟醸

 

招徳酒造㈱ 純米大吟醸 京

 

玉乃光酒造㈱ 純米大吟醸 備前雄町100% 生原酒

 

松山酒造㈱ 十石 純米吟醸

 

 特に松山酒造は、1923年(大正12年)に創業し100年近い歴史がありますが、1967年(昭和42年)から京都の伏見で酒造りを行い、近年は月桂冠の若手の育成と退職された方の受け入れ先として、月桂冠へ供給するお酒を醸していたそうですが、2021酒造年度は生産を休止されました。

 建物や跡地の処分を検討されていたところ、長い間、月桂冠で酒造りを担い、全国新酒鑑評会では「金賞」を8回の受賞歴があり、2019年には京都市伝統産業「未来の名匠」にも認定された杜氏の高垣幸男さんが酒造りを引き継ぎ、2023 年 1 月から製造スタイルを一新した新たな酒造りをスタートしました。

 

 今回、蔵へ訪ねお話を伺ったところ、高垣さんが松山酒造でこだわりたいのは、「京都の酒」という事であると話されていました。

 日本酒造りではよく「一麹、二酛、三造り」と言われますが、酒蔵大手は自社で酵母を作るところがあるが、自社麴はほとんどないそうです。

 麹をつくるもとの菌である「種もやし」を製造しているもやし屋は全国で数社のみだそうで、「十石」は、京都にある「菱六もやし」の種もやしを使用しています。

 いずれは麹もカスタマイズしたいと考えておられ、それには地元京都にもやし屋さんがあるのは、大変な強みになると考えておられるようです。

 

 「酵母」は、京都市産業技術研究所がつくりだした京都酵母で、華やかで旨みのある「京の琴」、コクと旨味の「京の華」、上品な香りと旨みの「今日の珀」、華やかでキレのある「京の恋」、スッキリ上品な「京の咲」の5種類で、素材に適した酵母をつかうことでそれぞれの魅力を引き出します。

京都酵母ピンバッジ

 酵母の細胞核と、酵母が出芽している様子を、利き猪口に使われている「蛇の目」から着想したロゴマークがピンバッジとなりました。

 各酵母が造る香味を色に見立て、京都酵母全体で、様々な香味の提案ができるイメージを虹色のグラデーションで表現しています。

 米を白いキャンバス、酵母を絵の具に見立て、キャンバスに絵を描いた時に作り手によって異なる作品が生まれるように、京都の蔵元か ら多彩な味わいの酒が生まれて欲しいとう思いが込められているそうです。

 

 酒造りに適した良質な酒米である京都産の「祝」と伏見の水で高垣さんが造る京都にこだわった日本酒「十石」、どんな料理にも寄り添う、やわらかな口当たりとふくらみのある味わいです。京都が好きな皆さん、吞んでみたいと思いませんか?

 

 酒蔵の所在地は、かつての薩摩島津伏見屋敷跡地で、天璋院篤姫泊地であった事、寺田屋事件の際の坂本龍馬の避難先として歴史の舞台となったところでもあり、京都伏見へ訪れるならば、歴史の跡でありながら、伏見では最も新しく、最も京都にこだわった酒「十石」酒を醸す松山酒造へ足を運んでみてください。

 

出典、参考文献・HP

松山酒造HP

京都産技術研究所HP

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