ポルトガルは、かのヴァスコ・ダ・ガマが象徴するように、海との係わりが深い国だ。歴史にも風土にも、もちろん景色にも海を色濃く感じる国である。だが、最も海を感じるのは、その食卓である。

海産物が実に豊富だ。ちょっとレストランを訪れると、多様な海の幸が顔を並べる。エビやムール貝といった珍しくもない輩でも思わず飛びつくうまさだが、ここでバカリャウを欠かすことはできない。バカリャウとは塩漬けした干しダラである。ポルトガルの名産品だという。

序章はバカリャウ・コロッケ。いわゆるコロッケに、細かいバカリャウが散りばめられている。細かいバカリャウは、「チーズ鱈」のタラの部分に近い。殆どただのコロッケだが、ほのかに魚の風味がある。ビールのつまみとして、高カロリーという点を除けば言うことなし、である。

そして本章はバカリャウを単に焼いたものである。本章にしては地味だが、これが極めてジューシーだ。ちっとも大げさでなく、脂が身から零れ落ちる。ビールともワインとも優れた相性を誇る器用さがにくい。魚に添えられたその他諸々の食材が目に入らないほど、目の前に横たわる”たかがタラ干し”が輝いて見える。

食後に終章を見る。ショッピングセンターを見れば、山のように積まれたバカリャウが安価で売られている。こぎれいなモールには似つかわしくないほどに豪快だ。だがそれは、いかにポルトガルの民がバカリャウを当たり前のものとして食しているかをはっきりと語っているのである。

ポルトガルに住む機会があれば、タラ干し(=バカリャウ作り)に従事しようと思う。

バカリャウ売場
ポルトは右を見ても左を見てもそこに歴史があった。

ポルトの中心駅に降り立つなり、只ならぬ時間の蓄積を肌で感じる。例えば京都や奈良は、歴史的建造物の周囲に現代が覆いかぶさっているが、ポルトは違う。行き交う人や行き交う車を除けば、街は今も歴史そのものである。

天井の空いたバスで街を巡ると、360°が常に絵になる。広い空と重厚な建造物のバランスの妙が僕の心を虜にした。しかしそれでいて、つい眠気を覚えさす穏やかさがある。とにかく居心地がいい。一言で印象を語るなら「優しい街」だ。

その一方で、ドウロ川に架かる橋の雄大さには思わず息をのんだ。大きなV字を描く断面に対し、上下二段で対岸を繋ぐ。その間に描かれたアーチが優美に力強く、大いに魅せられた。車や路面電車が走る橋だが、何故かそれらは目に入ろうともしなかった。そして壮大な歴史の演出を反面的に支えていた。

海や港が近く、海産物が優れてうまい(産地から近いかどうかは不明だが)。名産品「バカリャウ(塩漬けタラの干物)」の豊満な脂、エビの新鮮な歯応えは筆舌に尽くしがたく、書いていても涎が出てくる。物価も西欧にしては破格であり、満腹になるまで食べられるのが嬉しい。贅を尽くす、とは必ずしもお金の多寡によるものではないのだと痛感する。

嫌になるほど傾斜が多く、僅かな距離の移動も徒歩だと非常に辛い。だが、それも健康にいいと換言することにしようと思う。やはり素晴らしい街であった。

ポルトの街なみ ドン・ルイス一世橋
「ポルトガルといえばワイン」と心して向かったが、最も惚れ込んだ酒は意外にもビールであった。Super bockというそのビールは、ポルトガルにおけるビールシェアの約半分を握るビールブランドで、街を少し歩けばすぐにそのロゴが現れる。現物もさることながら、ポスター、車体等の広告も非常に多い。

どの店にもSuper Bockが置いてあるので、出会いはすぐにやってきた。うまい。実にうまい。苦味が少なく誰にも飲みやすいが、味わいの主張は決して忘れていない。軟弱な顔をして実は力持ち、という感覚。強いて言うならベルギービールの類に近い。

Super Bock Rubiという姉妹ブランドも憎いうまさだ。全体に味が濃くなり、色も赤に変わる。メイン料理に合わせたくなる味で、それこそ名産であるワインのお株を奪うようなビールだ。後で調べたところによると、度数も6.8%とビールにしては刺激的である。

ビールは旅を味わい深くする。非日常のビールは、僕を非日常に連れて行ってくれる。だが、これまでに旅先で飲んだビールの中で、Super Bockはその力が最も強かった。生涯忘れられぬブランドとなるだろう。現状では、韓国かマカオに行かねば手に入らないので、自らの手で入手ルートを確立しようと思う。(ただ、日本での配給権については某社と交渉中だとのことだ。無念)

蛇足だが、空港で最後に一本買ったSuper Bockは、ヒースロー空港にて液体持込として取り締まられ、無念にも空港職員の胃袋に納められる結果となった。

Super Bock