私が初めて一人旅に出た当時は、オザケンの『僕らが旅に出る理由』という曲がヒットしていた。
今から19年前のことになる。

今年、5月の旅で19年ぶりに以前面白いことをたくさん体験したオスロの街に舞い戻り3日程滞在した。特に予定も立てずあの頃の様に街を歩いた。お気に入りの公園の近くに宿を取り、19年の内に知り合った知人に街の船頭を頼んだ。それはそれは面白い旅となり、ここで長々と私情を話したい思いもあるが、もう少し1人で酔いしれて居たいと思う。
ただ一言お伝えできる事があるのなら、1人で旅をするという事は幾つになっても素晴らしいということだ。

19歳だった私は、バイトで貯めたお金と20歳の成人の祝いに親族から貰った祝儀を旅の資金にした。もっともバイトを始めた当初は、モッズを極めた先輩がヴェスパに乗っていたので、自分もその仲間に加わりたいとお金を貯めていた。ところが、先輩のヴェスパは故障が多く、隣町の蒲郡と大学のある豊橋を往復するのが精一杯のようだった。基本的に大雑把な私は手入れが必要なその乗り物は、自分に向かないと思いつつも羨ましく眺めていた。そんな時にバイト先で出会ったのが、28歳のOさんだった。
イタリア帰りのOさんは、イタリアでの暮らしをバイト仲間によく話した。いつも彼女の話の基盤と常識はイタリアだった。そしてOさんは皆が度肝を抜くような大胆で魅力的な女だった。バイト先の同僚は 彼女をひがんだり異端視していたのも私は知っている、でも彼女は私にとって現実にいる夢のような人で、夢を話す現実だった。
私は未成年ながらに彼女の尻をついて回り、訳が解らないながらにも一緒にワインを飲んだ。その当時のその街にはイタリアを彷彿させるもなどまともには何も無かった。
そんな金魚の糞の私であったが、彼女の勧めるイタリアにスッと行ったわけではなかった。ヴェスパの購入としこたま迷った挙句、期間は短くてもいい、まだ見ぬ欧米の欧と米の違いをこの目で確かめたいと思い旅立つことにした。切符を買うことを決意した日の夜には、モッズの先輩の卒業式に参加できないこの不義理を先輩に電話で懇々と説明をし、まだ見ぬ夢の世界を語った。先輩は、私の事をどう思っていたのだろう。例えどう思っていたとしても、マグマのように熱を秘めた私を誰も止められなかったとも思う。

1995・2月、私はユーレイルユースパスを持ち、2ヶ月のヨーロッパ旅行に出掛けることになる。
この一人旅が、現在のイタリアワイン専門店をする私に結びつける始まりの点となる。
雪の中のオーロラ、出会ったばかりの人との酒盛り、ロコの家で泊まることもあれば、ドミトリーで盗難を気にしながら眠りにつくこともあった。勿論のこと降りかかるアクシデント、知ったかぶりをする事、土地の言葉が解らずに視界だけの世界で過ごす日々や、二十歳の誕生日、しつこい男、カーニバルの渦、夜行列車…。

19歳の私が一人旅で得たものは、あの頃は山のように宝を持ち帰った気になっていたが、今の自分から見て当時得たものをもし一言で表すならば、この2ヶ月で世の中の大きい物も小さい物も実際は、どれぐらいの大きさなのかということを何となく捉えて帰ってきた感じだけだと思う。
雑多に、国宝も世界遺産も教科書に出てくる名所旧跡も美術品の陰に隠れる逸品も勿論、身の丈の感受性で感銘を受けて来ただろうが、こだわりをまだ持つほどではない幼い自分で良かったと思う。人とのコミニュケーションから生まれる世界の偉大さ、自然の偉大さ。大物とはどれくらいの物事かと、そして自分がちっぽけだという事、それだけははっきりとわかった。

緑のレイルパス片手にヨーロッパ各国の国鉄を乗り換える私の脳裏には例の曲がオートリバースで流れていた。

『僕らの住むこの世界には旅に出る理由があり、
誰もみな手を振ってはしばし別れる。』

20歳になり旅から戻った自分に特に変わりはないと日記に書いたのを覚えている。本当は違っている事を十分に知っていた。言葉は何とでも綴れる。どのように自分が移ろいゆくのかは自由だ。しかし、眼球は憶えている。沢山の人に出会い、美しいものを見ると瞳は輝きを放つ。そしてその奥にある心は湧水泉の如く溢れる知識欲を目覚めさせる。しかし視野の広さを得た人間は、森の様に落ち着くことができる。

今、ひと時かも知れないが定住の地を見つけた自分は、勇気を持って旅立つ若者の土台となるトランポリンなれればと思う。
今、時が来たと真に思っている若者よ。呼吸を鎮めタイミングを図るのだ。自分が十分に準備が出来ていると思う者も、単に他の世界を見てみたいと実生活から逃げ出したいだけでも何でも良いと思う。とにかくありったけの自分の持つ力で強く踏んでみてほしい、キチンと踏み切ればとんでもない世界に飛び込んで行けるだろう。どうせ跳ぶなら、大いに飛び跳ねて欲しい。道標くらいにしかならないとは思うが、この老婆心もきっと何かお役に立つことだろう。

一人旅、留学をするという事は、この街で人に護られて暮らし続けるのとは訳が違う。
また、周りの環境に恵まれ、若い間にそういった時を少しでも持てる人間は実は世界中のほんの一握りであるといずれ気付くだろう。
何が自分にとって本当に幸せかそのうち自分ではっきりわかるだろう。
いつの日か、自分なりの宝物を手にしてお披露目してくれる日を楽しみにしている。

そんなわけで、旅に必要な事を揃える為のセミナーを行います。
年齢関係なく旅行に出たいと思う方、ぜひご参加ください。

6/11(火)19:00~21:00『人生の愉しみ方vol.5~一人旅のススメ~』
人生の愉しみ方シリーズ久々です。今回講師は私店長の浅井美加です。
夢や希望はご自身で準備して頂きます。チケットの取り方、空港の利用の仕方、旅行用語、ヨーロッパ(特にイタリア)の滞在・留学のコツ。その他の情報、ご意見に対する返答を答えられる限りお答え致します。
ご希望の方は、ご連絡下さい。06-6365-5656・080-3116-2123
参加費用は、¥3000。
当店のイタリア語レッスンの生徒は、ワンドリンクの注文で参加できます。

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