ピォッツォの隣村には、カルがある。
そこは少し大きな村で、秋が深まるとトリュフ市が出てトリュフの売買が行われる。
モンフォルテのアルドもミキ(犬・黒ラブラドール)がいつも採ったトリュフをそこに売りにいっていた。
12月になるとソワソワする。
クリスマスが来るから、もちろんだ。
冬のバカンスが来るから、もちろんだ。
でももう一つちょっとしたお楽しみ、BUE DI CARRU'そうそうアレ。
牛の品評会がある。
ピエモンテにはファッソーネという品種の牛がいて、松阪牛のように歩けなくなるかという程太らされる。
オルネッラ姉さんは、品評会での牛の姿を見ては可哀相と言っていた。
松阪の町に幼い頃から縁のある私は、ファッソーネが歩いて来るのを見るとゴクッと唾を飲む。
今年は確か2000万円越えの牛が出たそうだが、イタリアではそこまで牛の値は上がらない。
私が最後にいた年は、ドリアーニの肉屋が育てた牛が優勝した。
エミリオとその翌日ヒヒッと笑いながら肉を買いに行ったのを覚えている。
そこまで良い肉は出ないが、この品評会の日はカルでは朝の5時からボッリートミストを食べることができる。
勿論カルの村にあるトラットリアやターヴォラカルダで用意されるだけでなく、特設の白テントでも紙皿にてんこ盛りのボッリートが食べられる。
タン・スジ・シッポ・ノド・アシ・オナカ・・・
ありとあらゆる牛の部位が鍋に入ってる。
「どこがいい?」
とかなんとか聞かれながら、贅沢な注文をする。
サルサベルデを漬けながら食べても食べても減らないお肉をフォークに刺したまんまワインのお代わりをする。
笑わされて、張ったお腹がはちきれそうになる。
「あの奥に座ってるコ、格好よくない?」
「え~趣味悪い。」
「あっちの巻き毛の男の子イギリス人っぽくていいよね~」
「話しかけてきてよ。」
「え~、歯にパセリ詰まってるし!ムリ!」
そんなガールズトークはおきまりのこと。
満腹でホクホク、牛と同じようにのしのし歩く。帰り道またマフラーをぎゅっと締めて、車に向かう。
友達と満腹することは、単純かも知れないがとても幸せなことだ。
きっと今年もあと1週間ほどでまたこのカルの牛のお祭りは催されることだろう。
今年もまた行けないから、ひとりあの日のことを思い出してボッリートミストを作る。
想い出の味が出てるかな。