駅のトイレで着替える。
時間がないのだ。それにシャワーも洗顔も何もかも家でしたほうが落ち着く。そのほうが良い。
ここでは、自分のことは最小限にして後にしたほうがよいに決まってる。
服を着替え始めると同時にドアに目が行く。えっ?という高さに線が残っている。わかるでしょうか?
トイレの鍵の更に10cm程上に水が押し寄せた痕が残っている。1mくらいの高さだ。ということは、この駅の地下道のポスターやら何もかもがないというのは、剥がしたわけではなく全て水に浸かってしまったということか。
今回の作業現場でもファイル棚が1mくらいの高さまで水が引出しに入ったまんまになっていた。これもあきらかにここまで水が来ていたという証拠でびっくりさせられた。
町並みはご察しの通り、その高さまで浸かり、水に色々なものが持ち去られた。車で駅に向かう途中見た光景は凄惨という言葉そのものだった。写真は撮れなかった。息が詰まったまま目だけがギョロギョロ動いた。
ここで人が死に、人が泣き、人が落胆した。
そんな町の姿を私がわざわざ写真にとる必要はないだろう。
私には口があり、感じる心で人に伝えればよい。
災難で苦しんだわけではないけれども、この町に足を踏み入れて知った事実を人に伝える語り部として役立てたらよい。
その人達が必要としていることの力になれたら、生きていてそんなに嬉しいことはないだろう。
元気に生きていること。生活が安泰なこと。友人・家族・知人が傷つかないでいてくれること。世界が平和なこと。これほどの最高の幸せに気付かないで過ごしているなら、たまには気付いてありがとうを言うべきだと思う。私達の平和は、時に平等に与えられているわけではないようなので。
この台風9号の災害で尊い命を亡くされた方へのご冥福をお祈り申し上げます。また、苦しい思いをされた方々のご苦労は計り知れないものと思います。一日も早い復興を願い、引き続きご協力をさせていただきたいと思っております。