小さい世界の中だが、語り継がれている歴史的な話がある。
私がまだ大学生の頃、住んでいたアパートはその大学と短大の女の子だけが住んでいた。
一階の奥の部屋に住んでいた私は、独り暮らしがまだ慣れておらず怖かったので、たいてい夜や家に居ない時は雨戸を閉めていた。
それなのに、私達の部屋はずっと何人かの変質者や覗き魔に包囲されていたので、玄関ポストから覗かれていたり、下着を盗まれたりという事は年中行事にもならない日常茶飯事だった。
下着は外に干すのが悪いのだけれども、今のように部屋干し用洗剤もなく、室内に干すと日も当たらないしよくなかったので、懲りずにベランダに干し続けていた。
もう何着持って行かれたか記憶にはないが、たいてい着て数回の新しい下着が持ち去られた。
それは変質者ではなく、中古下着業界が商品をかき集めているのではないか?と思うくらい、
ある程度新しいものばかりで学生のアルバイト賃で買ったお気に入りの下着はどこかで誰かに披露する間もなく
誰かのお蔵入りしていった。
一方覗き魔というと、警察に捕まることもなく通算4年巧く私達の部屋を覗き続けてくれた。
あるとき、馬術部の友人と自宅で遊んでいたら、上の部屋の後輩から一本の電話。
「部屋が、覗かれてるみたいなんです・・・(。>0<。)」
「可愛いマユちゃんに何をしてくれる!!\(*`∧´)/」
と、瞬間湯沸かし器の私は頭に血を上らせ玄関から出ようと、その時自分の家の玄関にも・・・人の気配が!!
これは、いける!
と、友達が居るのをいいことに妙なやる気が出てきて、
手にフライパンと殺虫剤。友達にも麺棒と鍋。
部屋のベランダに廻り、足音を忍ばせ、表側通路に出ると、そこには!!
一応震える思いで、ゲキを入れ追いかけてみたけれども、捕まるはずもなくスイカ畑のど真ん中で諦め帰宅。
鍋を持ったままの友人は、私が部屋を出る前に呼んでいた大家さんと警察に事情聴取を受けていた。
勿論、おまわりさん達に叱られたのは変質者ではなく、
危険を冒してキンチョールをバトンにして夜中走っていた私の方で。
あれから、10年。
いまだに馬術部の中ではキンチョールを持って変質者を追いかけた先輩の逸話が語りつがれている。
先週、一度も会った事のない部の後輩から、イタリア旅行の質問を受け、お礼のメールにその勇者の物語を知っているとの話がご丁寧に添えられていた。
10年経った今も、やはり下着泥棒には悩まされている。
今は室外には下着類は干さないのだが、室内干しのハンガーやシャワーに入って、今脱いだばかりの下着が洗濯機の上から持ち去られている事がある。
たいていはスグに見つかり、被害もそれほどないのだが、
長い時間家を空けていると、洗濯物のなかから下着だけが忽然と姿を消している。
最近は、宝石類までなくなったりしている。
けれどもどれもこれも、ひたすらベッドの布団の同じところに隠されている。
時に下着は両手両足に絡めて遊んでいる犯人を現行犯で見つけることもできる。
そんな時この犯人は犬のクセに「やっべー!!」という顔を思いっきりして、ブラジャーが肢体にまきついたまんま硬直して、まるで新体操の選手のリボン競技の最後のポーズのように静止している。
この彼も茶髪の巻き毛で道を歩くと女の子が振り返る程の風貌だ。
育ての親が自分なので、彼の不祥事をどうのこうの言うつもりはないが、
世の中の男って、どんなポーカーフェイスを作ってても、やっぱりとってもエッチなのね☆