日本の中高年(40~64歳)における引きこもりの人数は、内閣府の調査(2019年)によると約61万3000人と推計されています。

 

そのうち約半数が5年以上の長期にわたって引きこもり、引きこもりの8割が男性です。

 

15歳から39歳までの引きこもりの人数は、約54万人と推計されています。

 

若年層よりも、中高齢層のひきこもりの人が多いことがわかります。

 

また、若いころから引きこもりになった人が、長期化して中高年になってしまったともいえます。

 

調査では、「引きこもり」とは、6か月以上にわたり家庭に閉じこもって社会的な参加をしていない状態とされています。

 

 

2021年に起きた、引きこもりの男性の死亡事件を紹介します。

 

衝撃的で、胸がつまるような悲しく切ない事件でした。

 

参考;首都圏 NEWS WEB

https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20231116/1000099215.html

 

2021年、川崎市の住宅で37歳の男性が死亡しました。

 

長男の横山雄一郎さん(37)を監禁したとして、70歳の父親と65歳の母親、それに36歳の妹が逮捕されました。

 

男性は自宅の玄関に敷かれたブルーシートの上、衣服を身につけず、手足を縛られた状態でした。

 

男性には精神疾患があったとみられます。

 

同居していた両親と妹が監禁の疑いで逮捕され、父親は「外に出すと迷惑だと思った」と供述しました。

 

平凡な家族に、なぜこんなことが起きたのか?

 

 

長男は、亡くなるまでの4か月間、自宅で手足を縛られ、監禁されていたとみられています。

 

警察の説明では、長男は玄関に敷かれたビニールシートの上に衣服を身につけず横たわっていたそうです。

 

手錠やロープで手足を縛られ、身動きできない状態で、食事や排せつもその場でしていました。

 

去年5月、長男が衣服を身につけずに外出し、警察に通報がありました。

 

このことをきっかけに、自宅の2階で監禁が始まったとみられています。

 

8月になって1階に転落。

 

頭を強くうち、寝たきりの状態になりました。

 

流動食しかのどを通らなくなり、翌月、衰弱して死亡しました。

 

 

死亡した時の体重はおよそ50キロでした。

 

逮捕された父親は、警察に対し「外に出すと迷惑になると思った」と供述したそうです。

 

母親と妹は容疑を否認しています。

 

長男が17年前に暴れるようになったときと、去年5月に衣服を身につけずに外出したときの2回、家族は区役所と接触しています。

 

2回目の2022年5月、区役所の職員は具体的な医療機関も示して診断を受けるよう勧めましたが、結局受診しませんでした。

 

父親は警察の調べに、「連れて行こうとすると暴れて連れて行けなかった」と説明しています。

 

 

長男は、中学卒業後は県内有数の進学校に進み、都内の大学に合格しました。

 

転機となったのは大学入学後、17年前のことでした。

 

2004年5月ごろから大学に行かなくなり、その後、中退して自宅に引きこもるようになったということです。

 

2011年からは自宅の壁を壊したり、両親に暴力を振るったりするようになり、医師からは統合失調症の疑いがあると指摘されました。

 

父親はこのとき病院に連れて行くことについて区の保健所に相談しますが、担当者が確認のため自宅を訪問することは断り、その後、連絡も取らなかったということです。

 

このことについて裁判の中で父親は「家の中は物を壊されて荒れていたので来てほしくないという感覚があったし、長男が暴れたらどうしようかと思った」と説明しました。

 

おととし5月に長男が衣服を身につけずに外出したことから監禁を始めたという。

 

父親はこのとき福祉事務所に相談しましたが、福祉事務所からその後にかかってきた電話に応答することはなく、病院の受診にはつながりませんでした。

 

そして長男は監禁から4か月後に亡くなりました。

 

弁護士から「病院について相談しましたか」などと問われると、父親は

 

「病院に行ったとしてもまた暴れたらどうしようとか、新型コロナの感染状況が落ち着いたらにしようと考えた。

 

紹介された病院も調べたが結論を出せなかった。

 

死亡は予想できなかったが、かわいそうなことをしてしまい申し訳ないと思う」と述べました。

 

検察官から「親族や公的なサービスにもっと頼るべきではなかったかと考えませんか」と質問されると、父親は「もっと柔軟な対応をするべきだったと反省している」と述べました。

 

検察は「医療機関などに相談する機会は幾度とあったが、世間体を気にして監禁し、最低限の対応に終始した。

 

人としての尊厳を奪われたまま死亡させたことは非常に悪質だ」などとして懲役6年を求刑しました。

 

一方、弁護側は保護責任者遺棄致死の罪について争う姿勢を示し、「監禁は近隣住民に迷惑にならないようやむにやまれず行ったものだ。健康状態を確認しながら一人で懸命に世話をしていた」などと主張して執行猶予のついた判決を求めました。

 

父親は審理の最後に「もっと面倒を見ていればと反省している」と述べました。

 

 

自宅に監禁した上、必要な治療も受けさせずに長男を死亡させた罪に問われた父親に対し、横浜地方裁判所は、死亡させた罪については無罪とした。

 

裁判長は「父親が、死亡につながる長男の症状を見ていたという事実は認められないことなどから、医師の診察が必要な状態だと認識していたとは言えない」として、保護責任者遺棄致死の罪については無罪としました。

 

一方で「約10年の長きにわたり長男の対応に明け暮れていたことには同情の余地はあるが、公的支援を受ける機会は何度もあった。長期間監禁した行為は悪質だ」として、監禁の罪については有罪とし、懲役3年、執行猶予5年を言い渡しました。

 

判決のあと、足立裁判長は、父親に対して「長男が亡くなった事実の重さは変わりません。この不幸な出来事がなぜ起きたのかを考え、残された家族のためにも、今後は人によく相談してものごとを進め、二度と同じ過ちを犯さないようにしてほしい」と語りかけたという。

 

 

精神障害者と家族の問題に詳しい大阪大学の蔭山正子教授はこう指摘した。

 

「一般的に精神疾患の患者の家族は自分たちでなんとかするしかないと抱え込むことがある」

「精神疾患の患者が家庭内で死亡する事件は、これまでも繰り返し起きている。精神疾患は症状が悪化すると病院に連れて行くのが難しくなる。悪化したときに自宅で医療や看護が受けられるような支援を充実させることが必要ではないか」

 

 

この事件が報道されたあと、インターネット上には「自分の家も同じだ」といった声がみられたという。

 

統合失調症は、およそ100人に1人の割合で発症するとされています。

 

悩みを抱え、どうしていいのかわからない家族はたくさんいるのではないかと推定します

 

引きこもりの人々は社会的に孤立しているため、調査の対象となることが難しい場合も多く、実際の引きこもり人数は推計値よりも多い可能性があるといわれます。

 

人や行政に相談しても解決に繋がらない経験を、当事者家族は嫌というほどしてきたのではないでしょうか?

 

当事者や家族にしかわからない悩みや苦悩を、相談を受ける側が、どれだけ誠意をつくしても受け止めることが難しいこともあるでしょう。

 

引きこもり支援のためのカウンセリングサービスや自立支援プログラム、就労支援など進化しているといわれます。地域コミュニティやNPO、民間企業が連携して支援を行うケースも増えています。

 

今のままでは十分ではありません

 

政府や自治体は、引きこもり支援のための施策を強化し、実態把握と効果的な支援を提供するための取り組みを進めてほしいと願います。

 

そして、家族などの周りの人間が、適切に選択・判断できる知識やスキルを身に着けることが何より重要なのかもしれません。

 

最期までお読みいただき、ありがとうございました。