ちょっと前に話題になっていた本が今ごろ回ってきて読みました。忘れる前に記録します。
なかなかひきこまれる装丁。
ミステリアスな孤独死をとげた女性の身元解明に記者が奔走する話です。
人生いろいろあって最後はひとりになり、お金も引き取ってくれる家族もいない。
現代においてはそう珍しい話ではありません。
ただ本件、「行旅死亡人」となった女性は3400万円という現金を部屋の金庫に残し、明らかに身元を隠しながら40年もの間風呂なしのアパートに住み続けたという案件。
残された写真、旧姓と思われる印鑑、結婚後(←戸籍に婚姻の痕跡なし)の名前、などをもとに二人の記者が女性の身元を明かしていく過程は、ちょっとしたミステリーなみのスリルです。
二人の記者の奔走のかいあって、結局、調査対象の「チヅコ」さんの身元は明かされ、そのお骨は家族のもとに引き取られます。
めでたしめでたし。
(ここからネタバレ)
ただ、この探偵譚、いかんせんオチが弱い。
1)なぜ、チヅコさんは身元を隠すようにひっそりと暮らしていたのか
2)3400万円のお金はどこから得たのか
3)パートナーだったと思われる男性はいったい誰なのか
4)星形マークのペンダントやその中にメモされた数字、韓国ウォン札は何を意味するのか
5)そして、遺体の身長(133㎝)が日々会っていた大家さんの印象よりかなり小さかったのはなぜか?
1)~4)はチヅコさんが北朝鮮の工作員とかかわりがあったのではないか、などという憶測も生みますがウラは取れず。
5)はほんとにミステリーですが、DNA鑑定により遺体は沖宗千鶴子さんと断定されたので間違いないのでしょう。
*******************************
うがった見方ですが、憶測のウラは取れたのかもしれないけれど、各方面に配慮して出版して公にすることはやめた・・・のかもしれません。
*******************************
「行旅死亡人」ではありませんが、私にも死後、お骨になって家族のもとに帰って来た叔母がいます。
この本のチヅコさんと同年代で生涯独身。父母(←私からみて祖父母)もとっくに亡くなり、生きてるきょうだいとも50年以上会わず。お骨は納骨堂におさめられましたが、生きてるきょうだいは高齢でお参りにもいけません。(←かわりに私たちが行っています)
なんだかつらい話のように聞こえますが、戦争を通過して引揚げでいろいろ苦労して生き延びた結果の死にざま、と割り切ってのことでしょうか、きょうだいの一人である母も「もうお参りに行けん」とさばさばしたもんです。
チヅコさんの40年に思いを馳せます。
風呂なしのアパートに暮らし、きっきとキャッシュで家賃を収め、個人の生活感を近所に残さない。
そんな暮らしの唯一の悦楽は、きっと楽しかった頃の記憶。
人は、思い出で生きてゆける、のでしょうか・・・。