こども園に息子をお迎えに行ったある日のこと。
担任で、息子の担当(加配)のタナカ先生が、おやつを片付けるために、たまたま廊下に出てきていました。
私が迎えに来たのを見て、教室にいる息子に声を掛け、その後しばらく廊下でおやつを片付けていました。
私はタナカ先生とは少し距離を置いて待っていたのですが、タナカ先生、しばらくしてからチラッと私の方を見て
「おかあさん…大丈夫ですか?」
と一言。
タナカ先生からその日の息子の様子などを教えていただくことはよくあるので、話し掛けられたことは驚きませんでしたが、まさか息子ではなく私のことで声を掛けられるとは思っておらず、私は固まってしまいました。
「少しは気持ち上がってきましたか?」
そこまで話し掛けられて、気づかれていたのかと、改めて驚きました。
実はこの前の週、すごく気持ちが浮かない日があり、タナカ先生の声掛けにもほとんど反応できない日があったんです
運動会が近づくと気持ちが塞ぐ、ということは少し前に話したことがあり、たぶん何となく察してはいたんだと思います。
それでも、タナカ先生は保護者に対して口数は多くない方だと思うし、グイグイ来るタイプでもありません。
運動会前の面談でいろいろ話すことができ、ようやく心を開いて話せるようになりましたが、それまでは必要最低限のことしか話しませんでした。
私が悩みがちなのは、今始まったことでもないので、タナカ先生が踏み込んでこないことは、むしろとてもありがたいと思っていました。
そのタナカ先生が、私に一歩踏み込んだ声掛けをしてくれました。
今、私はタナカ先生のことをとても信頼している。
運動会までは誰とも話さない、と決めていたけれど、思いがけず声を掛けられたため、少し心が揺れました。
もし、そこまでの関係で無ければ、私はきっと
「大丈夫です。」
とだけ言って、その場を立ち去ったと思います。
悩んで、迷って、でもとっさに言葉が出ず、首を横に振って、大丈夫じゃないという意思表示をしました。
タナカ先生、
「そうですかぁ。」
と困ったような顔をされて…
そのまま教室の中へ
そして、息子を連れてきて
「さようなら。」
と。
…え?
何、聞いただけ?!
いや、もっと踏み込んで話をしてくれたら、私も少しは胸の内を話したかもしれない。
踏み込まないなら、最初から触れないでほしかった
そっとしておいて…
拍子抜けしたと言うか、後味が悪いと言うか。
その翌日もタナカ先生は何も言わない。
園長先生にもきっと伝わっているんだろうな、と思ったけれど、別に声を掛けられるわけでもなく。
やっぱり私は何も言えなくて、黙って園を後にしました。
タナカ先生、その対応、モヤモヤします
でも、ずっと前に私は園長先生にこうやって話していたんです。
「タナカ先生は私が心の中でいろいろモヤモヤと考えていることに気づいていると思うけれど、そのことには触れません。踏み込まないでくれるのが、とてもありがたいと思っています。」
まだまだ信頼関係ができていない頃の話です。
園長先生からタナカ先生にこの話が伝わっているかは分かりません。
でも、そのことを聞いていたら、タナカ先生はきっと踏み込んではいけないと今も思っているに違いない。
あまり自分の意見をグイグイ言う先生じゃないので、そんなタイプのタナカ先生が
「おかあさん、大丈夫ですか?」
とその一言を投げかけてくれただけで、先生としてはものすごく踏み込んでくれたのかもしれない。
聞かれたことに対して、嫌な気持ちは無かったです。
むしろ今回はタナカ先生が声を掛けてくれたことが、すごく嬉しかったし、ホッとしました。
(声を掛けられた時にはそう思わなかったけれど、後からじわじわそう感じています。)
私は何かしらの反応を返さないといけないと思いました。
「運動会が終わったらお話します、もう少し待って下さい。」
と言おうかなと思っていたけれど、その日の夜の出来事で、気持ちが変わりました。
息子が布団の上ででんぐり返しの練習をしていました。
運動会でマット運動があるそうです。
私は家事をしていてそばにいなかったのですが、息子が
「できたー!おかあさん!みて!」
と笑顔で言いに来たのです。
見に行くと、でんぐり返しは失敗
でも、何回かトライして、ようやくそれっぽい成功がありました。
息子は嬉しそうに笑うんです。
それを見た瞬間、私の本当の気持ちが分かりました。
息子の成長は嬉しい。
でも、できることが増えると、運動制限が始まってできない日が近づいているんだなと実感します。
純粋なこの笑顔が見られなくなるのかもしれない、という気持ちが悲しかった。
運動会って親が思っているよりもずっと子どもが成長しているんだな、と実感できる場面が多い気がします。
息子の成長を見るのが不安。
変な感情だけど、そうなんだなと気づいた。
翌日、こども園にお迎えに行った時、私は思い切ってタナカ先生に声を掛けました。
「先生…今少し時間ありますか?」
息子を教室で預かってもらい、タナカ先生と廊下で立ち話を始めました。
続きます。