掟の上書き | 小さい会社にしかできない労務管理のことを話そう

小さい会社にしかできない労務管理のことを話そう

労働エッセイストの松井一恵です。小さい会社には小さい会社にしかできない労務管理の方法があります。
丸17年社会保険労務士として生きてきて、みんなに知ってほしいこと、未来に残したいことを書き残そうと思います。

賢い総務の担当者はいたもので、我々のような専門家を上手に使います。

打ち合わせ中に、

「ちょっとよろしいですか」

と声をかけられました。

取締役全員がそろっている中で、

「営業の女性で高橋さん(仮)の件なのですが、遅刻が絶えないんです。」

この場で、遅刻の話ですか、と思いましたが、

聞けば、1年ほど前からちょこちょこ、ところが直近1ヶ月は3回、その注意をして舌の根も乾かぬうちに、再度90分。総務担当の方いわく、

「有給休暇は発生した分、すべて使う日を決めているので、時間有給などは一切使いたくないと言い張ってます。営業(仮)なので、直行直帰も多く、もしかしたら外でも遅刻をしてるのかもしれない。遅刻した分は給与を引かれているので、別にいいでしょという態度なんです。最近は、他部署の人までが電話で彼女を起こしていますが、その電話にも出ないこともあるようです」

とのこと。

ところが、その社員が極端に営業成績が悪いかというと、そんなことはなく、むしろ平均的社員より上。よく言えば、要領がいい。悪く言えば、ちゃっかりしていて甘え上手。

お客さんに上手にアプローチして、成績維持しているのだそうです。社長にもしっかり甘え上手で、「体調が悪かった」「疲れが残って起きられない。電話もできなうほど」と言い訳をし、社長のほうも成績もそれほど悪くないし、給与は控除しているのだし、「いい子だからねぇ、注意はしていますけど、女の子に体調が悪いって言われたら・・・」と、なんとはなし見逃して、ここまで時間がたってしまいました。

最近は言い訳も尽きて、理由は「寝坊」とあっけらかんと届出してくる始末。複数部署から「問題報告」として、総務に突き上げが来ているのに、きちんとした対応ができない社長に業を煮やした総務担当者が松井への相談という形で、問題を表に出したのです。

社会保険労務士にはそういう使い方もあるのです。よくできた総務担当者には頭が上がりません。

ご期待に応えて、私は社長に釘を刺しました。

「社長の判断で掟が上書きされますよ」

この会社にも就業規則があります。遅刻をするときの手続きや無届のときのペナルティ、もっというと服務規律には「就業時間のすべてを誠実に服務しなければならない」とあるわけです。これを会社も社員も守らなければなりません。

トップの社長が守らなければ、そのレベルまで会社の中の「掟」は下がります。

同じことをほかの社員がやったときに、

「高橋さんもやってますよね。社長も何にも言わないじゃないですか」

といわれたら、社長は全員にOKを出すしかなくなります。

逆に「いいこと」をしたときもそうです。

破格の昇格、昇給などは、前例として「掟」が上書きされるのです。

社長の言葉、行いはそれだけ重いということです。

 

不行跡があったときも功績が合ったときも、

誰がやったか、ではなく、

何をやったか、で判断しましょう。

一番気が合わない社員の行為でも、同じ判断をするのなら、

それで間違いがないと思いますよ。