「PERFECT DAYS」 | 夢の彼方に

夢の彼方に

折に触れて鑑賞している様々なライブやアート、スイーツについて
綴っています。

「PERFECT DAYS」を鑑賞しました。

東京・押上と渋谷を舞台に、トイレ清掃員の男が送る静かな日常の、小さな心の揺らぎを描いた作品。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、役所広司が日本人俳優として柳楽優弥以来19年振り2人目となる最優秀男優賞を受賞した。

 

押上の古いアパートで一人暮らしをしている平山。その日常は極めて規則正しい。老女による早朝の竹ぼうきの音にはじまり、夜が明けていく時に聞こえる小鳥の鳴き声、風の音。

おもむろに起き上がると歯を磨き、髭を整え、清掃のユニフォームに身をつつむ。青い軽自動車で仕事場である渋谷のトイレを掃除し、また部屋に戻る。淡々と同じ生活を繰り返しているように見えるが、同じ日は1日となく、毎日新しい日を生きていた。そんな彼のもとに突然の訪問者が現れ、平穏だった平山の日常と心情が揺らぎ始める・・・。

 

ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダース監督は、押上から渋谷へ至る首都高や、渋谷の個性的なトイレ、浅草駅の地下街、押上の東京スカイツリーや銭湯などを絵画のように映し出し、日本の景色や日本人の習慣、心の有りようなどをスクリーンに描いた。

セリフも少なく、淡々と生活をしているように見えるが、眼差しや僅かな仕草で心の動きを表現する役所広司の真骨頂を観た。

また、平山が日曜日にだけ通っている浅草の居酒屋で、あがた森魚が弾くギターで「朝日のあたる家」を歌う石川さゆりを、役所広司とモロ師岡が聴き入っているシーンに堪らなく感動した。

本作品はセリフの量が圧倒的に少なく、平山の過去をどう解釈するか、観る者の想像力によって、様々な世界が広がるだろう。

しかしそれは間違いではない。

平山は語っている。

「この世界はひとつではない」と。