今週、群馬県議会が全国初のネット中傷被害者支援条例を可決した。今年5月の木村花さんのネット上での誹謗中傷事件を受け、その直後から同県議会はこの条例の制定を表明、審議などを始めていた。

 この記事では、そんないまの日本の法律でできることを挙げ、またネット上の問題における課題は何か、どういった方法があるかなどを私なりに提案していくことにする。


1 ネット中傷に対して現状でできること


1ー1 刑事事件として

▽判断基準

 ネット上に中傷を内容とする書き込みが投稿された場合の一番の問題は、その書き込みが抽象された本人の社会的地位を失墜させるものであるかどうか、という点だ。もしその書き込みによって仕事をやめざるを得なくなったり、または根拠のない情報によってありもしない犯罪事件の容疑者にされていまうといったケースがこれにあたる。

▽事例

 最近1年間を見ても、「<アイドル>が違法薬物を使用している」(報道によれば、<アイドル>には具体的個人名などが示されていたという)という何の根拠や証明のない情報をツイッターに書き込み、名誉毀損で逮捕されるといったケースがある。

 また、「不倫をした」やその他の内容であっても、公益な目的があり、またはその内容が誤りなき事実であるとの証明がなければ侮辱に該当し、その中傷によって仕事にまで影響を及ぼす、近所から冷たい目で見られるなど、これまでの生活を一変させるほど重大なものは、名誉毀損にあたる。この場合、本人または家族が、どのような被害があったのかを告訴(警察に伝える)する必要がある。

▽名誉毀損などの捜査の途中段階

 犯罪捜査の段階で、例えば脱税で会社を捜索(ガサ入れ)する、裁判官の発行する「捜索差押許可状」(通称、令状またはガサ状)にもとづく家宅捜索といった手段があるように、ネット上の問題においても、それに似たしくみが考えられるのでは、というのがこの見方だ。

 誹謗中傷された書き込み、アカウント情報などを差し押さえる[注1]といった行動も、類推解釈[注2]によっては可能かも知れない。民事事件ではプロバイダなどの情報を開示できるまでに相当時間がかかるが、刑事事件の捜査として数時間から2~3日の審理期間で「令状」として強制的に調べることが可能になる。


[注1]差し押さえ=証拠を警察等で預かり、厳重に保管して守る
[注2]類推解釈=法律に具体的には書いていないけど、法律が守ろうとしているのはA(こういう権利)だから、この問題はA'(こういう似ている新しい考え方)と言えるよね、と考えること。



1ー2 民事事件として

 民事事件では、損害賠償請求と、その前段階の情報開示請求がある。ただし、その情報開示請求は、裁判と同じくらい途方も無い時間がかかるため、中傷の被害にあった人が、請求をする前に心が折れるといったケースも珍しくない。刑事、民事双方に言えることであるが、裁判に必要な証拠をそろえるにも、膨大なエネルギーを消耗してしまうのだ。





2 迅速な対処のための提言

 以下で私は、ネット中傷の迅速な対応に必要な具体策を提案したい。

2ー1 準司法機関

▽準司法機関とは

 準司法機関とは、裁判所ではないが、特定の事件に関して裁判所のような仲裁機能を果たす空間を言う。このテーマで言えば労働審判などがこれにあたるほか、税金(国税)に関しては国税不服審判所、海上の事故では海難審判所がある。

<図>対応する準司法機関と地裁までの流れ





 この問題の場合は、SNSでの、わかりやすく言えば悪口、デマなどが犯罪にあたる、またはその可能性があり、逮捕や裁判が必要な事例かを判断できる機関を設置しようという提案だ。

 この案が実現すれば、それぞれ特定の問題に特化し、専門的かつ迅速に判断でき、効率的かつより特化専門的に問題を判断できるため、SNSならSNSのみといった専門的な判断例が集まりやすい。

▽この方法の課題

 ただ、この案の最大の長所は、イコール最大の短所でもある。いま国や自治体がネット中傷規制に動いているということは、逆にSNSの問題があまり正式な場や法律によって判断されてこなかったという事実を意味している。つまり、何を基準に判断すればいいかの基準が少なく、まずこの「具体的な基準」を決めるところからの作業である。準司法機関が屋根なら、この「具体的な基準」は柱といったところだろうか。この柱をつくる作業が、現在SNSの中傷と闘っている方々の闘いそのものであり、そういった歴史的事実に対して、機関を設置する政府、また法によってこうした問題を裁く司法(つまり裁判所)も、しっかり真正面から全力で向き合っていかねばならない。この「具体的な基準」という柱が無ければ、準司法機関という家は建たない。

<図>柱「具体的な基準」と家「準司法機関」の図



2ー2 特別司法警察職員

▽特別司法警察職員とは

 特別司法警察職員とは、警察官や検察官(検事、副検事など)ではないが、特定分野や空間に関してのみ、警察官のような役割(逮捕、捜査、家宅捜索など)を果たす公務員を言う。

 例えば一番の有名所の麻薬取締官(通称「マトリ」、「麻薬Gメン」)は、麻薬、大麻、覚せい剤などの薬物犯罪のみを捜査できる、いわば薬物犯罪の専門家だ。

 また「空間」に関して言えば、海上のみを捜査できる海上保安庁、自衛隊員の犯罪や自衛隊基地での犯罪にのみ捜査できる自衛隊警務官といった専門家がおり、「特別司法警察職員」という呼び名で活動している。

<図>特別司法警察員と対象事件



▽ネット問題の場合は?どの場所につくる?

 SNS専門の捜査員を法改正によって新設し、ネットやSNS空間に範囲を限定して捜査させるというのがこの提案だ。現在、特別司法警察職員の所属組織には、組織の一部署が捜査にあたる言わば部署型(マトリなど)と、専門の組織全体で捜査にあたる組織型(海上保安庁など)がある。

<図>マトリ、海保の組織図



 この場合は厚生労働省の下位に、ネット庁を作るなどして対応できると考える。現在、犯罪捜査は法務省、電話やネット回線は総務省、心を含む健康は厚生労働省が担当している。例えばネットにおける中傷・自殺を第一の課題と考えるのであれば、ネット庁を厚生労働省の下部に設置する方法が第一の対処法だろう。



2ー3 SNS専門の高裁設置と高検の位置づけ

 SNS専門の高等裁判所(通称:高裁)を設置する案。現在この方法を利用しているのは、東京高裁の「特別の支部」である、知的財産高等裁判所のみである。これのSNS版を、例えば「インターネット高等裁判所」などの名前で設置し、ネット上の問題に集中して審議するようにする事によって、例えば準司法機関としての判断基準の積み上げや、訴訟の前段階として「そのネット上の問題が犯罪に当たるか」などについては、迅速に判断できる。

 ただし、日本は犯罪を裁く刑事裁判は基本的に(内乱など一部例外を除き)3回のチャンスを与えなければならない。高裁は3ラウンド制のうちの第2ラウンドのリングであり、高裁で「この問題は捜査や裁判をしなければダメだ!」と判断した場合は地方裁判所(通称:地裁)に差し戻し[注3]をしなければならない可能性が高い。

<図>インターネット高裁



[注3]差し戻し=この問題は前のラウンドで審議しなければならないという理由で、後のラウンドから前のラウンドに逆戻りすること。例えば、刑事事件で最高裁が高裁判決を破棄(この判決はダメだから却下)して、最高裁が「高裁(地裁の場合もある)で審議をやり直しなさい」と命令すること。



最後に

 この問題は、憲法上の「思想・良心の自由」に関わる重大な問題でもある。しっかりとした判例や判断基準を定め、時の政権によって判断が変化しない基準の安定性は、特にこの問題に関しては、絶対不可欠である。

 

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