〇税の向こうに人がいる

 

 自己資本主義とは:税金とは自分のお金を赤の他人に使うことである。役所の財源不足で高齢者の介護・医療や子供の教育に対する公的機関のサービスを維持できない、といって消費税の増税や社会保険料の増額などしてはならない。今までの働いた貯蓄や新NISAなど投資の利益など自分の資本で必要な民間の有料サービスを利用するべきである。

 税の向こうにはそれを使う人がいます。問題はその人が誰か。政治家が無駄遣いしているだけではないのです。私たちも税金の恩恵を受けているのです。私たちは税の負担者であり受益者なのです。そのさじ加減はどうあるべきかを問うのが政治家でありそれに応えてふさわしい人に投票するのが国民なのです。

 いま日本では年々出生数は減少しているのに介護が必要な高齢者が増えています。いくら元気な高齢者が多いとはいえ働いて税金を納める人の数は今後減少していくことは明らかです。今ですら税金などの国民からの徴収では予算が足りないから国債を発行しています。日本は特例国債と建設国債で約35兆円もひねり出している。しかし返済に国債費約28兆円支払っている。これをたった約7兆円しか自由に使えないとみるか、28兆円も国民に還元されているとみるか。
 
 ひと昔に流行ったMMT(現代貨幣理論)では日本の国の借金は国民の財産といっていますが、自分の入っている年金基金や生命保険や個人国債を持っている人以外は関係のない話でむしろ過去の(自分を含めた)誰かさんの「ツケ」を払わされているのです。それなのに税金を借金の返済に使われることを批判する人がいます。国の借金はかつて社会保障などに使うために国民から借りたのだから利子を付けて返すのは当たり前です。国の借金の返済は「国民」への還元なのです。(ただその「国民」は上級国民が該当するようですが)。財務省は税金を挙げてまで「国民」への借金を変えそうしているのです。なんと立派な省庁でしょう。ザイム真理教とか揶揄するやつらはそれがわかっていない。
 
 消費税を廃止し国債をもっともっと発行しようというMMTの人はそのことを踏まえているのでしょうか。やはり消費税23兆円というのは貴重な財源でそれを減らすというのは歳出を減らさなくとも必要な公的サービスがさらに行きわたらなくなるリスクがあります。
とはいえ財政が悪いから日本が財政破綻するとは思いません。支出を減らせばいいのです。
(上級国民の心の声)
「生活保護も子育て支援も廃止すべきだ。下級国民を甘やかすとろくなことがない。日本国の上澄みである上級国民にとって何が大事か。景気対策で株価を上げることだ。生活保護も子育て支援も貧乏人の介護も。そんなのにカネを回すくらいなら半導体産業にカネを回したほう景気回復にずっと効果がある。上級国民は自分たちで最高の医療介護子弟の教育の費用を自前で最高のものを賄えるから税金をあげて景気に足かせになるくらいなら貧乏な下級国民を救わなくていい。」

 

 結局、「新しい資本主義」とは「自己資本主義」でしかなかったのです。そして意図せず日本国民は福祉国家の危機を景気の問題にすり替え国民の負担のない増税なき景気対策によって問題解決を目指しています。景気はいくつかの数値だけみれば素晴らしく良いです。自民党頑張っているじゃない。失業率は3%を切り有効求人倍率1以上なんて就職氷河期を味わった人間としてとんでもなくいい数値ですし、日経平均も4万円越えなんてかつては信じられない額です。
 

 確かに物価の高騰と給料があがらないため自称「庶民」の「生活は苦しい」。けどなんとか毎日の生活を過ごせるが、親や自身の介護、子供の教育、とかまとまったお金が必要になるとき困る人が出てくるのが今の社会です。  
 それがわかっているから皆がせっせと貯蓄や投資をして将来に備えるので税金なんか払いたくない増税なんかもってのほか。しかし人生という長いマラソンにおいて各々で資産の額に差が出てします。新社会人はほぼ皆が資産ゼロか負債といっても奨学金ぐらい(といっても収入が低いとかなりの重石ですが)、定年後の70歳くらいでは同世代でかなりの資産の格差があります。資産がゼロどころか収入が国民年金以外ないのに住宅ローンがまだ残っている方や、無職なのに仕事をしていた時と同じような支出をして借金がかさんでしまった方などたくさんいます。日々の生活のやり繰りが苦しいのに高齢者となると医療費や介護費用などが掛かりますが、それらを提供する自治体も財政状況がよろしくないところが多いのでどうしても住民へのサービスに回せる予算も限られてきます。
 
 国は景気対策のために日銀に国債を引き受けさせるという裏技があり借金をこさえても何とかしのいでいますが、我々の身近な生活の行政サービスなどを担う地方自治体は地方債を発行できますがそれを地銀なんかに押し付けてチャラにするということはできません。見方によっては地方自治体の借金とは国が費用負担すべきものを負担している、つまり国の借金の肩代わりをしているといえます。そんなわけで地方自治体の財政がよろしくないのに必要な予算が増えても増税とか市民の利用料の増額とかできませんから経費削減しなければなりません。何をやっているといえば民間企業と同じ人件費の削減で「有償ボランティア」「会計年度任用職員」なる非正規雇用を「発明」し官製ワーキングプアを大量生産しています。しかしもとは我々納税者が消費税増税や社会保険料の増額を激しく反発した結果、生み出されたもので私たちに大いに責がある話です。また自分の自治体の財政状況に忖度した職員による生活保護受給申請の水際阻止は全国で広く行われていますがこれも税金収入が足りないから起こっていることです。

 

 そういう現状がありながらも財政が悪いから公的サービスは頼りにならないが増税は嫌だとなると、自分で貯蓄や投資をして将来に備えることになります。いわば自己資本主義社会というべき世の中です。自己資本主義社会は夜警国家に毛が生えたような社会で政府への不信感と他人にカネを使いたくないというエゴが融合して医療や介護、子供の教育を自分たちの所得で賄う、ただしタダなら有り難く使わせてもらう。現状自前では医療や介護が賄えない人が大勢いるのに今後もさらに増えていきます。日本人は政治家が悪いというだけではなく、キチンと財源論に目を向けそのためのあるべき税制(主に消費税の増税)や社会保険料の負担増の必要性などを真剣に考えるべきなのです。
 

 貯蓄や投資も大事ですが税金や社会保険料を単なる搾取か見返りのない負担とみなすべきではないのです。それに長い人生というマラソンで貯蓄や投資がうまくいかない人が大勢いますしあなたもそのうちその一人になる可能性があります。自己資本では人生に行き詰まり公的サービスが満足に受けられないのはその程度のサービスしか提供できないような消費税率・社会保険料を選んだ結果であるのです。未来にろくな医療や介護が受けられない可能性のある「結果」を承知の上で「今のまま」を選択しますか?それとも消費税率・社会保険料を上げるという選択をして、たとえ「貯蓄ゼロでも不安ゼロの社会」の実現を目指しますか。将来の不安からの「政治とカネ」で悪徳政治家をいびって悦に浸っている場合ではないのです。