「真緒ちゃん、何とか頑張ろうとしてるみたいだよ、」
南は遅くに帰宅した真太郎の脱いだスーツの上着をハンガーにかけた。
真緒と二人で話したことは南にも黙っていた。
「・・あさって。大阪に出張。」
それには答えず仕事の話をした。
「え?明後日?急じゃない?なんかあったん?」
「いや。ちょっと支社行って。 細々した問題片づけてくる。2泊3日、」
「そう。わかった。」
特に何も不思議に思わずに頷いた。
「こんな時間に。すみません、」
真太郎は前日からの大阪の仕事を終えて丹波篠山に到着したのは午後5時過ぎになってしまった。
「いえ、」
初音は夕べのうちに真太郎から連絡をもらっていたので駅まで迎えに来ていた。
「何もない所ですが。美味しい野菜を中心にした小さなレストランがあります。 社長をご案内するのは少し憚られたのですが。」
「いやいや。そういうところに行きたかったんです。楽しみです、」
真太郎は笑顔を返した。
テーブル席が4つとカウンターの本当に小さな店だった。
「真緒さんが初めてここへ来た時に案内したお店です。ウチの野菜も入れさせてもらっていて、」
真緒の名前が出て少し緊張した。
「社長は、飲み物は何を。ビールがいいですか。」
「いえ。ぼくはお酒がダメなので。」
「じゃあ。ジンジャーエールはどうでしょう。ここのは手作りなんです。しょうがの香りが良くて食事の邪魔にもならないですから。」
初音は穏やかに言った。
「うん。美味しい。タケノコも取り立てだとこんなに美味しいんだ・・。 山菜も煮物だけじゃなくて魚介の付け合わせなんて。初めてだ、」
真太郎は料理の美味しさと珍しさにテンションが上がった。
「野菜は本当に美味しいです。手前みそですけど。東京の高級なレストランより・・正直美味しいです。」
そして真太郎はそっと箸を置いた。
「あの。実は。初音くんと天音くんが高野楽器の副社長の息子さんだということをぼくと妻が知ることとなって、」
神妙に彼を見た。
「え、」
「天音くん。ぼくらが知っていると思ってしまったみたいで、」
そう言われて
「まったく。天音は考えが浅いから、」
初音はふっと笑ってしまった。
「そして。その前に真緒からも。あなたと起業をしたい、という希望も聞いて。」
それには食事をする手が止まった。
「・・反対しましたよ。無謀すぎるし。あなたが高野の人と聞いてからは・・妹と会社なんかやってる場合の人ではない、とも。」
「・・いや、それは。」
「高野さんも・・あなたが欲しいでしょう。妹の思い付きにつきあっている場合ではない、」
真太郎は少し社長の顔になった。
初音はそれに緊張した。
そして真太郎は南にも黙って丹波篠山の初音を訪ねます・・
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