パーティーのホスト役、高野社長夫妻はゲストへの挨拶で大忙しのようだったが、天音の父・野々村直人はその合間を縫って挨拶に行った。
「ここに来られる立場ではないのに。本日はありがとうございました、」
野々村は深く深く頭を下げた。
「来てくれて。ありがとうございます。きっと父も喜んでいますよ。」
高野社長は優しい笑顔だった。
「父は死ぬまで有希子とあなたのことを後悔していましたから。有希子が大学を卒業したら・・見合いさせて結婚させようと本人に黙って話を進めていて。それがあなたと交際している、とわかって逆上してしまって。もう話も何も聞かずに別れさせようとして。取り付く島もなかった父に有希子は見切りをつけて・・」
当時のことを思い出して遠い目をした。
「娘を自分の思う通りにしようと躍起になっていたことを・・後悔していました。有希子の心の病は自分があなたとの結婚を認めず、何も助けてやれなかったからだとも。」
「いいえ。有希子の病は私の責任です。全て私が、」
野々村はうつむいた。
「有希子は昔から一本気な性格でね。頑張りすぎて。あの頃はピアノコンクールでも成績を残せなくなって精神が不安定になっていた。全て自分が努力をすれば乗り切れるって信じて疑わない。
あなたについて丹波篠山に行った時もきっと頑張れるって思ったんでしょう、」
有希子と交際していると知られて。
『おまえの顔など二度と見たくない!恩を仇で返したな!とっとと浜松へ帰れ!』
先代社長に激怒されて
これまでかわいがってもらって仕事もたくさんさせてもらって。
それを裏切ってしまったことへの贖罪はずっとずっと持ち続けていた。
有希子が自分の元へ来てくれた時もその嬉しさと同時に社長への申し訳なさが常にせめぎ合っている状態だった。
家を捨ててまで自分と一緒になってくれた彼女が本当に愛おしく、そして生まれた子供との小さな幸せを壊したくない思いでずっと過ごしてきた。
「もう。息子たちも立派になった。あの子たちを見ると『正解』だったのだということはわかります。きっと父も喜んでいます、」
高野社長はピアノ演奏をうっとりと聴いている天音を見やった。
自分が選んだ運命がずっと間違っていたと後悔していた。
それでもそれを悔んだら。
この息子たちはこの世に存在しなかった。
それを想像するだけで涙が出る。
野々村はゲストと一緒にそのピアノ演奏を聴く有希子に視線を移した。
正直
あの時のような熱い気持ちはもうない。
それぞれの人生を歩いていくだけだ。
子供を置いていくことに迷いはあっただろうけれども
今の息子たちを見ると
初音の決心も
何もかもすべて
これで良かったのだと今は思う。
あのころたくさんの大人たちの思いが絡まり合って解決できないことがありました。今穏やかな時間を迎えて・・
そして。
ゆかりと高野有希子の関係は???
ナゾを残したまま
すみません、明日からお休みとなります。
ここから一気に展開していきます。
お休みばかりで申し訳ありませんがしばしお待ちくださいませ・・
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