「東京、遊びに行ったん?」
祐奈にそう言われて
「いや。天音が。弟が今ホクトエンターテイメントの社長の家に下宿してんねん。・・挨拶にと思って。」
初音は色々端折りながら説明した。
「え!ホクトエンターテイメントって。芸能事務所の?なんで?すごいやん、」
「弟は今ピアノの調律の勉強しながら仕事してて。その関係で北都の社長の奥さんと知り合って。それで・・」
話しながらも作業をどんどん続ける。
そんな彼に祐奈は小さなため息をついた。
「マンション、もう決めてはあるの。もし時間があったら引っ越し手伝ってくれない?」
一瞬手が止まった。
「なかなか時間がなくて。もし時間があえば。」
どちらともとれる返事を彼女に背を向けながら言った。
『あたしとつきあって、』
高校1年生の夏に彼女から告白された。
学校でも有名な賢くてかわいい子で
性格も明るくて社交的で。
クラスの中心になるような女の子。
正直戸惑ったけれど、好感を持っていたし断る理由もなくて。
何となくつきあうようになった。
彼女は趣味もたくさんあって話をしていると楽しかった。
その頃は天音もまだ小学校低学年で家の仕事もあったしデートらしいデートも数えるほどだった。
学校で会って話して自転車の二人乗りで帰ったり。
暗くなった田んぼ道を一番星を見ながら帰って。
初めてのキスをして。
だけど。
高校を卒業するころには現実が見えてきた。
彼女は神戸の一流大学に進み、進学をせずに実家の農業を継いだ自分とはもう違うということも痛いほど感じるようになった。
どっちかというと自分からどんどん彼女から離れてしまった。
別れよう
と自分から切り出した時には泣かれた。
なんで?どうして?
ばかり言われた。
でもそれに答えられるほど自分も大人じゃなかったし
彼女からしたら納得できないまま別れた感じだった。
恋をすることさえ自分には贅沢に感じ始めて。
その時から『封印』して。
「初音、なんで結婚せんかったん?いい人もいたんちゃう?」
祐奈はそこに切り込んできた。
「・・いないよ。生活で精一杯。」
初音はネギの箱を全て軽トラに積み終えた。
「ウソ、」
祐奈は彼の前に回り込んできた。
「なんで嘘つかなアカンねん、」
首にかけたタオルで顔を拭いた。
「高校の時だって初音とつきあいたい女の子たくさんいた。もうとにかくめちゃくちゃモテてたし。いくら仕事忙しくたってそういう人いてもおかしくないやん、」
なんだか20年前の彼女に戻ったようだった。
祐奈はまるで高校時代に戻ったように初音に接しましたが・・
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