天音は父や兄と違って本当におしゃべりなので彼が実家に戻ってくるともう空気が一気に変わる。
夕飯後、お笑いのテレビを見て大きな声で笑っているだけで家の中が明るくなる。
「マジこのどら焼き、うまっ!マジ金庫くらい餡子入ってる、」
お茶を飲んでお土産のどらやきをパクついた。
「お父ちゃんも兄ちゃんも食えば?」
と勧められたが。
「なあ。天音、」
意を決して初音が話し始めた。
「ん?」
振り向きもせずテレビを見ている。
「あんな。お母ちゃんのことなんやけど、」
「またそれー? もうええやん、」
まだテレビを見続けている。
「ほんまのこと。話したい、」
そう言ったらようやくゆっくりと振り返った。
食べていたどら焼きの半分を包み紙の上に置いた。
そしてなんとなく正座をしてしまった。
「その前に。お父ちゃんから言うわ、」
それまで黙っていた父がゆっくりと話し始めた。
天音はいったいこれから何が起こるのかとドキドキした。
「お父ちゃん、次男やったから。高校出た後外に働きに行くことはもう決まってて。知り合いの伝手で浜松のピアノ工場に働きに行ったことは前に話したよな、」
「・・うん、」
「それがHIRAIのピアノ工場で。1年くらい基本の組み立ての仕事やったあと、耳の良さを買われてな。仕上げの調律の部門に配属された。ありがたいことに工場長にも認められて。納品先の調律にも連れて行ってもらえることになって。本格的に調律やるようになった。最初は学校とかホールなんかでやっていたけどそのうち浜松の高野主催のピアノコンクールにも駆り出されるようになって。腕も認められて。」
父がスゴ腕の調律師だったことはもちろん知っている。
そんな父の背中を見て自分もこの仕事に憧れた。
天音は神妙な表情で聞いていた。
「そうしたら。高野楽器の社長に腕を買われて。東京にも行くようになって。そこで。お母ちゃんと出会った。」
母の話になってゴクっとツバを飲み込んだ。
「何見てんの?」
真緒が遅くまでリビングでなにやらパンフレットを見ているのにゆかりが気づいた。
「え? ああ。 あたしね。車の免許取ろうかなーって、」
見ていた教習所のパンフを母に見せた。
「え~?いまさら? 危なくない?」
「やっぱ仕事してみると。自分で車運転できたらなーって、」
「そりゃ便利だろうけど。あなた自転車にも乗れないじゃない、」
「ま、まあ。そうだけど。でも自転車と車関係ないじゃん。とりあえず暇見つけて教習所に行くことにしたから。そしたら!お父さんとお母さん乗せてドライブも行けるよ!」
「・・怖すぎるわよ。」
北都家のリビングは二人の笑い声が響いた。
父は意を決して天音に『真実』を話し始めます・・
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