「やっぱり。東京の星の数は・・少ないですね。」
真緒はぽつりとつぶやいた。
丹波で見たあの星空が忘れられない。
「あの星空を見てしまうと。見えなくてもきちんと光ってる星がいっぱいあるんだなあって、」
吐く息が白い。
初音も空を見上げた。
「その光ってる星だって。今はもうないかもしれないんですよ、」
オリオン座の三ツ星はここからでも見える。
「オリオン座のあの肩の部分。赤っぽい星。あれがベテルギウスです。赤っぽい星は爆発間近とも言われていて。もうあの星の99.9%は終わってるらしいです。あのさそり座のアンタレスと一緒で。」
初音は静かに語った。
「でも。まだあんなに光ってるんですもんね。もうなくなってたとしても・・。こうして光ってる。やっぱり人間も同じですよね。なくなったとしても。自分が成し遂げたことがずっと残ったとしたら。自分の生きた意味あるっていうか。ずっと自分にはないと思ってました、」
真緒は静かに自嘲した。
初音は黙って車に乗り込んだ。
静かなジャズが流れる中。
「・・優しい人だったんですよ、」
真緒はポツリとつぶやいた。
一瞬なんのことか、と考えたがすぐに理解した。
「まあ。ギチギチのお見合いでもなかったんですけど。父の知り合いの紹介であるお宅のホームパーティーで会って。ハーバード大出てから東大の大学院出て。外務省に入省した超エリートだったのに。全然威張った所もなくて。温和で物静かな人でしたがさりげない気遣いとか。あー優しい人だなって。こういう人と一緒になったら幸せだろうなあって。」
窓の外の行きかう車のヘッドライトの明かりを見ながら肘を掛けた。
「話はすぐにまとまって。彼がフランスの日本大使館に派遣されること決まってたから慌ただしくパリに行くことになって。恋愛期間って言える時間もあったかどうか。でも。こうして外交官の妻になって海外に駐在するってことがなんかステイタスみたいに感じてたのかも。若かったし、なんも考えてなかったんですよねー」
ふふっと笑った。
まるで独り言のように。
また会話が途切れた。
初音は信号待ちの間にナビをささっと操作した。
「おなか。空きません? ごはん食べて行きましょう、」
「え?」
彼からそう言われて少し意外そうに見やったがそのまま進行方向を向いたまま車を走らせた。
真緒は少しずつ初音に過去を話し始めます・・
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