そんな小和の真剣なまなざしに気づいて
「あ、これ。 めっちゃかわいそうな女の話してるわけでもなんでもないからね、」
さくらは慌ててそう言った。
「え・・、あ。 いえ、」
そう言われても何と言っていいかわからない話だった。
「偶然。 志藤さんがひなたの同級生だった奏のピアノを聴いて、藝高受験したいって子がいるからレッスンしてくれないかって・・紹介されてね。 まっさか。 これが彼の子供とか。 また天地ひっくり返るくらい驚いた。 やってらんないって思った。 その頃ちょうど奏のお母さんが交通事故に遭って入院してて。 それで奏は南ちゃんのところに預かってもらうことになってたの。 北都邸で奏のピアノを聴いて。 不思議にスッと心に入ってきたんだよね。 あの人たちが啓輔さんの前に再び現れなければ、彼と一緒になってたかもしれないのにって・・それまでは何度も何度も思ってたのに。 奏のピアノを受け入れた瞬間、なんか・・どうでもよくなっちゃったっていうか。 あたしがこの仕事を真剣にやっていこうっていうきっかけになったの。 きっと設楽さんと結婚してたら今の自分はなかった。 意図せずに人って出会ってしまうじゃない? そして運命が動く。 もちろん流されるだけじゃダメだけど、流れてしまうのよね、」
さくらは食卓のおかずに手を付けて食べ始めた。
「ほら、さよちゃんも食べなよ。けっこう美味しくできたよ、」
「はい・・」
ようやく小和は食事を少しずつ口にした。
「美味しい・・」
「そう? ありがと。」
小和はさくらの作ったおこわを食べながらぽろっと涙をこぼした。
「・・つらいよね。 それはすごくわかる。 瑠依からさよちゃんと別れたって聞いた時。 瑠依のこと。なんか責められなかったんだよね。 それは別に『家族』だからじゃなくて。 恋愛って・・当人たちにしかわからないバランスがある。それが崩れてしまう理由は他人には到底わからないから。さよちゃんはいい子だし、仕事も熱心だし。 いつも幸せでいてほしい。 瑠依にもね、そう思う。」
いつもはテンション高めなさくらだけれど、今はすごく穏やかで優しい声で。
小和の心にジンと沁みていく。
「まさか。 耕平さんと出会った時にこの人と結婚するなんて夢にも思わなかった。 だってあんまりにも設楽さんと違う人だったし。正反対って言ってもいい人だったし。 どっちかって言うと優しくて物静かな男よりヒリヒリするくらい情熱的な男の方が好きだった。 設楽さんにふられて・・少し変わったのかも。 今まで見えなかったものが見えるようになった、」
さくらは茶碗をコトっと置いた。
恋愛経験が少ない小和の失恋にさくらは優しく話をします・・
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