「ただ。 やっぱり家庭の事情もあります。あたしの気持ちだけでは、」
ななみはまた視線を落とした。
「ちゃんとオヤに相談してみ?」
彪吾が言った。
「・・んーー、」
「確かに医者になるにはお金も時間もかかる。『絶対になるんだ!』って強い気持ちを持たないとできないプロセスだし、そういう仕事だと思うよ。 彪吾は・・医者になる気はさらさらないみたいだけどね、」
住吉は笑った。
「おれも。 ちゃんとやりたいことオヤに言うよ。なんか・・中学受験失敗してよかったって今は思う。今じゃないと自分がやりたいこと気づかなかったかも。 医者って『やらせる』ものじゃないくて『自分でやる』ものだと思う。 他の仕事だって同じだと思うけど、人の命に関わる仕事だからさ。 志藤みたいに真面目な人間がやるべきじゃない?」
彪吾はにっこりと笑いかけた。
「・・親に相談も・・勇気がいる・・」
ななみはまたひとつため息をついた。
こうしてななみは悶々としたまま時間が過ぎた。
そして学校での三者面談が行われた。
「じゃあ・・ 第一志望は都立一ツ木ってことで・・」
担任の長瀬がプリントに記入した。
「・・はい、」
ななみは小さく頷いた。
「まあ。 志藤さんの成績なら・・大丈夫でしょう。このまま頑張って、」
そう言われて、母のゆうこはホッとした。
そして面談が終わろうとしたころ
「あ、そういえば。 医学部の話、ちゃんと考えたの?」
とふられて、ななみはぎょっとした。
「・・医学部・・?」
ゆうこは驚いた。
「そ、それは! ・・まだ、ちょっと・・」
ななみは焦ってごまかした。
「ま、高校に入ってからゆっくり考えてもいいと思うよ。 じゃ、本日はありがとうございました。」
長瀬は立ち上がってニッコリと笑った。
「え! ななみちゃんお医者さんになりたいの?」
その後、用があってゆうこの実家白川家に寄った。
お茶を淹れてきた兄嫁の優香子がびっくりしたような声を出した。
「や・・なれたら・・いいな~~って思うだけで。 全然、そんな・・」
ななみは話が大きくなりそうで慌てて打ち消した。
「ななみ、全然言ってくれないんだもん・・。 びっくりしちゃった、」
ゆうこはお茶を飲んだ。
「さすがななみだなー。 おれ、ななみはなんかでっかいことしそうな気がしてたんだよ、」
仕事で来ていたゆうこの次兄・拓馬は犬のモーリスを膝に乗せて撫でながら言った。
「・・そんなに簡単になれないよ・・」
ななみの声はどんどん小さくなった。
「そうよ。 お医者さんなんて・・ 自分が丈夫じゃなかったらできないのよ。 ななみにその体力あるの??」
ゆうこは心配になって思わず声が大きくなってしまった。
考えが固まらぬまま思いが母に知られてしまいます・・
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