adagio(4) | My sweet home ~恋のカタチ。

My sweet home ~恋のカタチ。

せつなくてあったかい。
そんなラブストーリーがいっぱいの小説書いてます(^^)

「・・カジさんは。 大学時代も『変わった人』とみんなから思われていて。でも、カジさんのピアノはそんなことを吹き飛ばしてしまうほどの力がありました。こんなに巧いのになぜコンクールに出たりプロになったりしないのかって・・ずっと思っていたんですけど。こんなことがあったなんて、びっくりしました。 あたし。 カジさんって人を・・ホントにわかってなかったんだなって、」

 

ずっと黙っていた小和がぽつりとこぼした。

 

「・・今からでも遅くないと思う。 カジくん、もう一度ピアノを弾いて。」

 

明日実は力強い瞳を彼に向けた。

 

「え、」

 

「あなたの才能を。 あたしが潰してしまった。 あのまま・・きちんとピアノ弾いてコンクールにも出てたら、きっとすごいピアニストになってたと思う。 この世界のことずっと気にしていてあなたが世に出てないこともわかってた。 あたしのせいだって・・ずっと思ってた、」

 

今までの悲惨ともいえる彼女の話など

 

まるで導入だったかのように。

 

明日実は切実に訴えた。

 

「明日実のせいじゃない。 きっとあのまま続けていても・・おれはダメだったと思う。ピアニストになれるような精神の持ち主じゃない。」

 

加治木は優しくそう言った。

 

「あたしのことでカジくんは楽しいことや幸せなこと。 全て諦めてしまったんでしょう? ・・あたしの妊娠はカジくんだけのせいじゃない。あたしの責任でもある。 子供を堕ろすことになって、確かにあたしの身体は傷ついて、そして尊い命も失った。 でもカジくんだって同じくらいの傷は負ってる。 自分だけ、責めないで・・」

 

彼女が加治木に会って言いたかったこと。

 

それが全てなんじゃないかとさくらは思った。

 

 

「カジ、もう一度演奏家として頑張る気持ち、ないの?」

 

さくらも思わず後押しをした。

 

みんなの視線が彼に集まる。

 

いつものように表情を変えず少しうつむいたままだった。

 

「・・それは。 もう、ないです。」

 

そして静かに言った。

 

「学生の頃はただただピアノを弾いていれば気持ちが楽になって。何もかもから逃げられて。いつの間にかそんな風にピアノを弾くようになって。 大学を卒業したら・・すごくそんな自分が嫌になって。 篠宮先生のところでバイトをちょっとする以外は・・家に籠って。 そのうちドイツにいる先輩から誘われて向こうで音楽事務所手伝ったり会場設営のバイトしたり。もうピアノのこともどうでもよくなってきてる自分にも気づいてました、」

 

加治木は少しだけ声を張って顔を上げた。

 

才能がありながらも演奏家への道を加治木は拒み続けます・・

 

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