「今・・どんなにあたしが幸せに暮らしていても。 あの時失わせてしまった『命』のことは。一生償っていかなくちゃいけないって思っています。若くて何もわからなかったけれど、だからこそ一生忘れたくないって思ってます、」
そして明日実はあの時絶ちきってしまった『命』に触れた。
「それは。 おれも一生罪に感じて生きて行かなくちゃいけない。 おれは身体を傷つけることもなかったし、明日実が受けたダメージより・・無責任なほど何もなかったけれど。 それはずっと・・思ってた、」
加治木も小さな声で、それでもしっかりとそう言った。
さくらは自分のお腹にそっと手をやった。
もうすぐ生まれてくるこの命が。
本当に愛おしい。
「・・意味のない命なんかない。 誰のための命でもない・・」
ようやく涙が止まって正面に座った明日実を見た。
「こんなに大切な話を。 私たちに話してくれて・・どうもありがとうございます、」
成は頭を下げた。
「いいえ。 この間カジくんが忘れ物を私に届けてくれた時に。『話がしたい』って言ってくれて。」
今までのおれたちの話と。それからの話を。 一緒に仕事をしている篠宮先生とナル先生と神山さんに話をしたい。
聞いてもらいたい。
加治木の申し出に少し驚いた。
もう自分とのことは封印したいだろうと思っていたのに。
「みんな。 おれのことを・・とても心配している。 信じてるって・・後ろについてるからって・・言ってくれてる。 だから・・」
やっぱり言いたいことの100%は表せなかった。
明日実はそんな彼の思いを慮って、
「わかった。 うん、大丈夫。」
大きく頷いた。
「カジくん、・・いい先生たちのもとで仕事しているんだなあって。 本当にもうそれだけで嬉しくて。高校時代のカジくんを理解してくれる同級生も・・先生もいなかったから。 彼を理解してくれる人たちがいるってだけで。 本当に嬉しかったです、」
明日実は静かにさくらと成に言った。
「・・カジ、」
さくらは胸がいっぱいになった。
「・・篠宮先生のおかげで。 ピアノや音楽のことを仕事にする楽しさや尊さを知りました。 こんなに何も話さないおれを。 信じてくれた。 何も訊かずに・・信じてくれた。 やっぱり音楽が好きなんだ、と。 一度は音楽から離れた仕事もしましたけど、セリシールに雇ってもらえて、本当に今はありがたいばかりです。 明日実と思わぬ再会をして・・一緒に仕事をしたくないとか。 過去から逃げてばかりで。そんな自分が本当に情けなくて・・。 ナル先生も、何も訊かずにおれを信じてくれた、神山さんもおれが明日実と仕事をしたくないって我がままを言っても受け入れてくれた、」
加治木は訥々と三人に訴えた。
過去を打ち明けたことで加治木が少しずつ変わってゆきます・・
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