それから
の彼女の話を聞いた加治木は顔を両手で覆ってしまった。
「・・でも。 カジくんはやっぱりすごいね。 藝大に合格しちゃうんだから。」
そんな彼を気にして明日実は明るく声をかけたが
「そんなこと。 なんもならない。 藝大に合格しても・・首席で卒業しても。 ただただピアノ弾いてただけだし。おれがやりたいことやってきただけだし。 おれが・・何もしないで。 ぼんやりしてた時も明日実は・・頑張ってたんだな。 お母さんから自分の記憶が消されても。絶望しないで、頑張ってたのに、」
その彼女の強さがよけいに自分を惨めにさせた。
「・・絶望は、したよ。 お母さんがあたしを傷つけてきた時の方がまだ・・自分の存在意義あるって思ってたし。ああ、本当にあたしはお母さんに必要なくなっちゃったんだなって。 自分もいなくなった方がいいんじゃないかって。 思ったりもした、」
彼女の言葉に覆っていた手をゆっくりとほどいた。
「でも。 どんな理由でこの世に生み出されたとしても。 あたしは・・生きる。 生きてやるって思った。 それなら・・自分が生きたいように生きるって。 生きたくても生きられなかったお兄ちゃんの分まで。 あたしは生きる。」
もう明日実は泣いていなかった。
そんな彼女に
「・・『明日実』って。 いい名前ね。」
加治木の母が優しく声をかけた。
「え、」
「・・わからないけれど。 お母さんがつけたのだとしたら。 少なくともあなたを産んだ時にはお兄さんの命以外のあなたの命を思ってくれていたんじゃないかって。 『明日、実る』って。 希望の塊じゃない。 お兄さんへの命だけじゃない。 あなたがひとりの人間としてこの世に出た瞬間に・・親でさえ思うようにできないあなただけの人生が始まってる。 悲しいこともたくさんあっただろうけど、本当に強く生きてきたのね、」
その彼女の言葉で
さくらの涙腺が崩壊してしまった。
いきなり顔を手で覆って泣きはじめてしまった。
その勢いにみんなが驚くくらいだった。
「・・おまえがそんなに泣いてどうするんだよ・・」
成は諌めるように彼女にハンカチを手渡した。
それを乱暴に奪い取って顔に押し当ててワンワン泣いた。
「ど・・どうしよ・・ なんか・・もう・・」
あまりの泣きようにみんな思わず苦笑いをしてしまった。
「い・・命って・・すごいね。 生まれるって。 すごいことだね・・」
さくらはしゃくりあげながらそう言った。
それでも絶望せずに明日実は強く生きてきました・・
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