「このたびは。 本当におめでとう。 この学校でも在学中にジャパコンで優勝する子はいなかったから、」
にこやかに校長からそう言われた。
「ありがとうございます、」
奏は静かに頭を下げた。
「・・高遠くんのためとわかっていても。 少し寂しいわね、」
担任の江藤も少ししんみりした。
「本当にお世話になりました。 ありがとうございました、」
奏の隣に座った母・梓が深くお辞儀をしたので、また慌てて奏も一緒に頭を下げた。
「・・決勝に。 制服で出てくれたのは。 嬉しかったよ、」
校長は目を細めた。
「あ、いえ・・」
奏は少し照れ臭く、窓の外に目をやった。
秋晴れの午後。
応接室のテーブルに置かれたトロフィーと楯が西陽で誇らしげに輝く。
ジャパンピアノコンクールで史上最年少優勝を果たしたのは昨日のことで。
それからマスコミからの取材やなにやらで非常に忙しかった。
決勝に合わせて日本に来ていた母・梓がマスコミをさばいたり、身の回りの世話をして
また妹の美音をNYで留守番させてしまっているのは申し訳なく思ったけれど、
本当に助かった、と奏は思っていた。
そして。
決勝の3日前、志藤からセリシールでレッスンを受けていた時のことを思い出していた。
*****************************************
「は? 制服で??」
志藤は思わず聞き返してしまった。
「はい。 制服で。 いいです。」
奏は落ち着き払っていた。
「いや。 決勝やん・・ スーツ、色々作ってもらってたくさんあるやん・・。 制服て、」
「関係ないです。 スーツであろうと制服であろうと。 ・・藝高の生徒として。 コンクールの決勝に出ます、」
奏は迷いのない瞳でまっすぐに志藤を見た。
「やっぱり。 辞めるんか、」
志藤は確かめるように奏に言った。
「・・はい。 帰り道は作りたくないって思ってます。 先輩でも海外留学をしても籍を残していく人はいます。 せっかく入った学校だし、日本の音高の中ではトップの学校ですけど。 でも。 これからはもっともっと上だけ見て歩いて行きたいので。」
初めて会った頃は
しっかりしていても、まだまだ気弱な所もあったのに。
志藤はそんな風に思っていた。
このジャパコンが終わったらウィーンへの留学が決まっている。
出発まではもう半月くらいしかなく、慌ただしく日本を後にすることになる。
奏は藝高を辞めてウィーンの音楽院に行く決意をした。
そんな思いを抱きながらの
制服で決勝を弾く
決意をした。
奏はジャパコンで見事優勝、そしていよいよウィーンへと旅立とうとしています・・
↑↑↑↑↑
読んでいただいてありがとうございました。よろしかったらポチお願いします!
で過去のお話を再掲しております。こちらもよろしくお願いします。