Wish comes true(18)

葦切は春の北都フィルの定期公演のことで

帰宅が遅くなり12時近くになってしまった。

もうとっくにさくらは寝ているだろうと思い、リビングの電気をつけると

真っ暗な部屋にさくらがぽつんと座っているのが見えて

「さ、さくらさん・・。」

びっくりした。

「・・おかえりなさい、」

ゆっくりと振り返った彼女は本当に顔色が真っ白で、くちびるに赤みもなかった。

「どう、したんですか・・」

驚いてそっと近づく。

さくらはそんな彼に泣きそうな顔になり、いきなり抱きついた。

「さくらさん・・？」

「どうしよう・・。　どうしよう、」

さくらはそう言って

泣いた。

「・・こども・・」

葦切はやや呆然としていた。

「・・検査薬で陽性だったってだけで。　病院には、行ってないんだけど、」

さくらは少しだけ冷静になって鼻をかんだ。

正直、葦切もこんなに早く彼女が妊娠するとは思っておらず、とにかく驚いた。

そんな彼のリアクションに

「・・そうですよね。　こんなに早く、子供できるとか。　あたし、絶対ムリだって思ってたんで。　ほんと・・なんか。　自分の健康さがすごいっていうか、」

無理に笑ってみせた。

「て、ていうか。　すぐに病院にかからないと。」

葦切は慌てた。

「あたし。　週末の奏の本選に。　どうしても行きたくて。　だから、帰ってから病院は行こうと思っていたんです、」

「え、」

「ほんとは先週初めくらいから・・。　志藤さんに『ひょっとして。』って言われてたんです。　あたしの様子がここのところおかしいって、思われてて。　志藤さんは5人もお子さんがいるので・・。　なんかピンときたみたいで。　でもあたし。　どうしていいかわかんなくて。　検査薬とかも・・。いやそれよりも奏のコンクール、って思ってて。」

何度も鼻をすすった。

「子供、欲しかったですけど。　あんまり深く考えてなかったっていうか。　妊娠して、出産したら・・あたしホントやっていけるのかなって急に不安になって、『考えすぎだ』って思おうとしていたんです。　志藤さんの秘書の栗栖さんにも心配してもらって・・。　何とか検査薬を買って。　思い切って調べてみたら・・」

葦切は何も言わず彼女の目をジッと見ていた。

「でも。　絶対に今週末の香港には行きたくて。　奏にとって大事な大事なコンクールです。　今のデキからしたら・・優勝も夢じゃないんです。　あたしの・・最初の夢が叶う。　奏にもかなえさせてやることができるって・・。　それをこの目で見たくて。　志藤さんが今日来た時に、立ちくらみを起こしてしまって、気づかれてしまったんです。　そしたら、耕平さんにすぐに電話しようとしたんで。　もしこんなこと言ったら絶対に行かせてくれないって思ったら、」

また涙が出てきた。

思い悩んださくらは葦切に妊娠を打ち明けます・・

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