「ほらもー。 泣くなって、」
まだ鼻をすすっているひなたに言った。
「だって、家でメソメソしてたら。 パパに怒られちゃうもん、」
ひなたは小さな声で言った。
そんな風に言う彼女がちょっとだけかわいそうになって。
奏がホクトと正式に契約を交わして、志藤が本格的に奏のこれからのプロデュースに関与することになった。
奏は日本で終わらせたくない
彼はきっぱりそう言った。
娘と離ればなれになろうとも、奏がピアニストとして世界に出ていく手助けをする。
一流になる、ということはそんなに甘いことではない。
ひなたももちろんそれはわかっているけれど、やっぱり離れてしまうと寂しくて泣いたりしてしまう。
「でも。奏の前で泣かなかったじゃん。」
さくらはひなたの頭を撫でた。
「カナが笑顔で行かれなくなっちゃう…。 だから。 我慢した、」
「だいじょうぶ。 奏がどんなにひなたのことを大好きか。 あたしもわかってるから。 」
「・・それは。 わかってる、」
「わかってるんかい、」
少し絆されそうだったさくらはひなたの頭を小突いた。
「声、出てないよ! ひなた、もっと声出して!」
気持ちを切り替えようと思ったけれど、やっぱり少し引きずってしまっていた。
「ハイ!」
1年生で大会のサポートメンバーに選ばれたひなたはさらに厳しい練習をしていた。
「ほら、床に落ちた汗。 ちゃんと拭いて。 滑って転んだら怪我するから、」
コーチに言われてひなたはモップを持ってきて床を拭いた。
「んじゃあ。 フォーメーションやってこうか。」
集中、集中。
ひなたは自分に言い聞かせた。
部活が終わればいつもの通り、みんなでワイワイとおしゃべりをしながら帰る。
「いいよなー。 佑真は毎日うなぎだろ?」
「食わねえよ。 おれうなぎそんなに好きじゃねえもん、」
「えー、だって長男でしょ? いつかは継がなくちゃ、」
「おれはヤだ。 弟に継がせる。」
「とか言って。 10年後に会ったら絶対うなぎ屋やってそうだよな、」
ラグビー部の佑真と奨もいつも一緒だった。
佑真はふっと我に返り
「・・なんか。 影薄いぞ、」
うしろを歩いていたひなたに振り返った。
「え? あ? あたし? そお? 別にいつも通りの濃さだと思うよ、」
ひなたは普通にそう言ったが、佑真にはいつもと違う気がしていた。
「今度親父がみんなにうなぎごちそうしてくれるって言ってたから。 来週あたり来いよ。」
佑真がみんなに言うと
「うっそー! マジ太っ腹! 楽しみー!」
「ひなたもうなぎ好き?」
玲那に言われて
「え? なに?」
また上の空だった。
「もー。 聞いてなかったの? 佑真のお父さん、うなぎごちそうしてくれるって、」
「あー、そうなんだ。 うん、大好き。」
いつもの笑顔ではあったけれど。
部活に励むひなたでしたが、やっぱり奏のことが気になって…
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