「・・別に・・根拠はないんだけど。」
夏希はボソっと言った。
「え?」
「・・きっといつか。 自然に赤ちゃんは来てくれるんじゃないかなって思ってる。 今は神様がまだだよって言ってるだけなのかなって。 隆ちゃんが、仕事落ち着いて・・少しはゆっくりできるようになったらきっと、」
そして高宮の首に抱きついた。
「ん、」
そんな彼女を優しく抱きしめた。
「食事中も勉強かあ、」
翌日の昼、休憩室でパンを食べながら資料に見入る紗枝の姿を見つけた志藤は声をかけた。
「え? ああ。 なんか専門外って思ってたけど。 けっこうおもしろいのよ。 企画の仕事に繋がることもあるし。」
紗枝はニッコリ笑った。
「ほんま。 すごいな。 おまえは、」
志藤は横に座って伸びをした。
「・・あたしたち。 会社でこうして仕事できるのってもう10数年しかないのよ。 あっという間よ。この年になって新しい仕事与えてくれた社長には感謝しなくちゃ。 またやる気にさせてくれて。」
この仕事に対する姿勢が彼女をここまで引っ張ってきた。
「高宮が。 自信失くす気持ちもちょっとわかるなあ、」
コーヒーに口をつけた。
「え?」
「おまえがNCの仕事することになったって聞いた時から。 高宮と一緒にやることになるやろけど、だいじょぶかなって思ってた、」
クスっと笑った。
「なんで?」
「あいつ、まあ仕事できるのは間違いないねんけど。 めっちゃプライド高くて。 自分に絶対の自信を持ってるんやけど、鼻っ柱折られると・・・むっちゃ弱くなんねん、」
「なに、ソレ。」
紗枝は笑ってしまった。
「来たばっかりのころは南とケンカしたり、最近だって栗栖ともすごいケンカしたり、もうぶつかる時はなかなか激しいねん。 何となくおまえともきっとぶつかるやろなって思ってた、」
「別に。 ぶつかってへんで、」
紗枝は構わず資料に目を落とす。
「うん。 まあ・・当時の南や栗栖よりもおまえが『大人』の対応したから高宮も爆発しなかっただけで、気持ちは悶々としてるみたいやで。」
「高宮さんはあたしよりも下やけど。 この仕事に関してはあたしは彼に教えてもらう立場。 彼がめっちゃ仕事できるってことは噂で聞いてたし、彼が作った文書や書類の数々を見ればそれはわかる。 この前は『あなたが社長代理という気持ちでいてはいけない』なんて言っちゃったけど、たぶんNCのことに関しては専務でさえ彼に言えないこともあるんじゃないかって思うくらいの権限があることはわかってた。 彼がそんな風をあからさまに吹かしてたわけでもないけど、なんかね。 どういうリアクション返ってくるか興味あったっていうか。」
紗枝は平然と言った。
「は? 試した?」
「うん。 部下育てる時にね、わざとキツいこと言ってその子がどうするか試す時あるの。 だいたいそれでその子の性格とかポテンシャルもわかるし。 自分が期待するリアクションでなくても、じゃあその子にはこうやって接しようとか仕事与えようとか考えるわけ。 もちろん高宮さんは部下ではないけど、興味あったから。」
「ふむ・・」
「噂だけ聞いてると。 めっちゃおもろそうやなって前から思ってたから。」
紗枝はふふっと笑った。
紗枝は高宮を試していた?
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