「それに、」
志藤は静かに続けた。
「まあ、仕事は自分一人で何とかなる部分あるけどな。 子供は一人じゃ作れへんやんか。 自分が悪いとか、相手が悪いとか、自分だけ頑張ればいいとかそういうもんやないし。 逆にそういう気持ちで作るとかでもない。 なんて言っても授かりモンやしな。 おまえにとっては『とんでもないこと』やったと思うけど。 なんの後ろめたさも恥ずかしさもないと思う。」
この人のチャラい部分が昔から嫌だった。
だけど。
悔しいけど人を諭す、ということを誰よりもわかってる人だといつからか思うようになった。
今、実際めっちゃ諭されてるし。
高宮は少しだけ冷静になった。
「まあ。 よくよく考えたら。 別におまえ何にも負けてないし、間違ってもないしな。 たまには肩の力抜いて。 ホラ、加瀬のアホな話聞いて笑ってればええやん、」
志藤は笑って高宮の頭をぽーんと叩いて行ってしまった。
「ただいまー・・」
高宮が玄関で靴を脱いでいると、リビングでものすごい音がして驚く。
「・・夏希??」
慌てて上がって行くと、
「い・・・たたたたた・・・」
夏希が足のすねを抑えてのたうちまわっていた。
「・・どしたの・・?」
「・・・あ、隆ちゃん帰ってきたーって思って。 キッチンから慌てて飛び出そうとしたら・・
引き出し開けてたの忘れてて・・・」
キッチンの収納の重い引き出しが確かに開けっ放しになっている。
「う~~~~~。 ここ打った~~~~。 へっこんだ~~~~」
本人は痛さに必死に耐えているのだが
その姿があまりに間抜けでおかしくて、ぶっと吹き出してしまった。
「・・ちょっとお、笑ってないで、」
「もー、すごい音したからさあ。・・ほら、あんことブブもゲージで暴れちゃってんじゃん、」
リビングの隅に置かれたゲージの2匹が落ち着かず騒がしかった。
「あー、痛かった! あ、ごめん。 おかえり、」
ようやく夏希は息をついた。
「別にそんなに慌てて出てくることもなかったろーに、」
そう言いながらも。
病院から元気のなかった自分を一生懸命明るく迎えてあげようとしてくれたであろう彼女の気持ちが嬉しかった。
「隆ちゃんは仕事でいろいろ大変だから。 やっぱさあ、家ではのんびりしてもらおうと思って。さっき本屋に行ってマッサージの本とか買ったりして。 寝室にアロマオイルとかもいいらしいよ。」
ニッコリ笑う夏希に
「・・おれもなー。 夏希や志藤さんみたく。 もっともっと毎日を楽に生きればいいのにって思うよ、」
ぽつりと言った。
「え?」
「何でもついとことんやりたくなってしまう。 やれないと自分を責めるし、周りも責める。 自分が完ぺきでないと、落ち着かない。」
「隆ちゃん、」
「人生なんか。 うまくいかないことの方が多いのに。 今、こうやって暮らしていけるだけでホントは幸せなのにな。」
高宮はそっと夏希を抱き寄せた。
意味なく焦っていた自分の気持ちが夏希に癒されます・・
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