「あー、その話はこの前専務から聞いたな、」
志藤は休憩室で一服していた。
「いよいよかって感じもしますけど・・、」
高宮は以前倒れてからタバコは控えるようにしているが、その分コーヒーの量が増えた。
ブラックのまま口にした。
「まあ・・正直。 大社長と同じ量の仕事をあの人がこなせるかって言われたら・・難しいかもしれへん。 ほんま北都社長は人間とは思えないほどの仕事してはったし。 その分、NCの方は別に社長を立てることにしたし、ホクトの仕事に専念できるけどな。」
「で。 ぼくにそのまま秘書としてついてくれって言われて、」
高宮はまたそこでこらえきれず笑みがこぼれてしまった。
「・・・うれしそやな、」
そういうことは絶対に見逃さない志藤はすかさず言った。
そう言われると、慌てて顔を戻して
「・・名誉なことです。 ほんと専務は御曹司なのに全く驕った所もなく質素で真面目で部下にも気を遣って下さるし、いつも穏やかでぼくの話もしっかり聴いて下さるし。 立派な方です、」
真面目な顔になって言った。
「ホクトもこんだけ大きくなると、世襲もどうなん?ってトコやけど。 まあ・・あの人なら社内はもちろん株主も文句ないやろな。 あの人が大学卒業したばっかりのころから知ってるけど、ほんま社長の育て方が良かったというか、息子としても後継者としてもほんまに隙なく育てたと思う。 まあ・・社長が倒れた時は色々あったけど、それでまた成長したというかあれからほんまになりふり構わず頑張って来てるし、」
「・・あの人のために頑張りたいって、思いますよね。」
しみじみと言う高宮に
「ずいぶん。 心酔しちゃったなァ、」
志藤は笑ってしまった。
「え、」
「ま、あの人にはそういう力もあるけどな。」
「なんか。 ぼくの死んだ兄にちょっと似てるんです。」
高宮はぽつりと言った。
「ああ・・デキの良かったっていう兄貴?」
「ええ。 勉強もスポーツも万能で。 人望もあって。 生徒会長とかもやってみんなを統率する力もあって。 優しくて。 思いやりがあって。 弟の自分から見ても完璧な人でしたから。 ほんと。 兄貴みたいになりたいって思ってたし、」
その話は
北都社長が倒れて、真太郎が行き詰まってしまい失踪し
そのとばっちりを高宮がひとり受けることになり挙句の果て倒れてしまったけれど
彼自身、真太郎のことをひとつも恨むことなく待ち続けた時にチラと聞いたことがあった。
「ここに来たばかりのころは。 いつか経営コンサルタントとして独立して、なんて思ってたけど。今はすっごく会社の力になりたいって思うし、自分でもなってきていると思えるし。 こういうやりがいもあるんだなって思ってます、」
「そっか。」
志藤はそんな高宮を優しいまなざしで見た。
「それでNCの方は引き継ぎをして来年度にはこっちの仕事一本になることにもなったし。 ようやく落ち着きます、」
「そういえば。 成田紗枝がNCの幹部になる話は聞いてる?」
志藤は思い出してそう言って煙草の火を消した。
高宮は真太郎に大きな信頼を寄せています。そして志藤から紗枝の話を聞いて・・
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