「いや、やっぱりアカンと思いますよ、おれは。」
「・・うーん。 止めるべきだったでしょうか・・」
志藤と真太郎は休日出勤で、社長室に籠って仕事をしながらも
気になって気になって仕方がなかった。
南は陸と紗枝と共に紗枝の実家について行ってしまった。
だってあたしは陸の親代わりやん。
紗枝ちゃんは一人娘で、お父さんもお母さんもきっと大事に育てはったんやろし。
そんなお嬢さんを陸のお嫁さんにいただくんやから、きちんとお許しをいただきたいから。
とか。
もっともらしいこと言ってたけど。
真太郎は小さなため息をついた。
もう陸も大人なんだから
とか言ってたのは、どこいっちゃったんだ??
そして。
紗枝は両親に連絡をしていたものの。
「・・ほんまにすみません。 突然に押しかけまして。」
南は紗枝の両親を前に満面の笑みだった。
それとはうらはらに
「・・ごめん。 お母さん、ちょっと頭の中こんがらがってよくわからへんのやけども、」
紗枝の母は困惑したように娘にそう言い、父は難しい顔をしたまま黙っていた。
「そんなに難しいことあらへんで。 だから、こちらが高原陸さん。 私より10歳年下で34歳。 もともと大阪の設計事務所で仕事してたんやけど、その会社が東京に事務所構えるってことで呼ばれて仕事してたの。 そして、彼はホクトの社長の息子さん・・専務の奥さんの弟さんなの。 まあ、いろいろあって・・結婚しよかってことになって。 それだけやん、」
紗枝は事前に両親に詳しい説明をしていなかったようで
初老に差し掛かった彼女の両親は40半ばになった娘がようやく結婚という運びになったものの
その相手が10歳年下、そして北都社長の外戚・・という展開にやや混乱していた。
「ウチ両親がおりませんので。 私が代わりにやってまいりました。 大切なお嬢さんを頂くのですから・・」
南が張り切って言い始めたのを
「・・ちょっと。 もう、いいから。」
陸は迷惑そうに南の肩を引っ張った。
「おれが言わなアカンやろって、」
と突っ込んだ。
「あ、ああ・・そっか。 ごめんごめん、」
南は慌てて陸よりも自分が前に出ていたのに気付いて下がった。
陸はきちんと正座をして
「・・た、高原です。 ・・頼りないとお思いでしょうが・・、どうか紗枝さんとの結婚をお許し下さい。」
緊張気味に頭を下げた。
まだあっけにとられてノーリアクションの両親に
「彼、来年の春からあたしが東京のNCに転勤になることになって・・自分も大阪の事務所に帰らずに東京に残れるように計らってもらったの。 あたしのために。 確かに10歳年下やけど・・ほんまにしっかりしていて、一級建築士の資格も持っていて仕事もしっかりしてはるし。 自分でも意外な展開やなあって思うけど、まあ・・運命かなって思うし。」
紗枝は静かに言った。
「東京へ行くことになってしまって。 お父さんとお母さんには申し訳ないと思う。 正直、あたしも結婚はもうないかもしれへんて思ってたから。 でも・・いくつになってもこういうことあるんやなって思った。 」
ずっと黙っていた父親が
「・・それだけの人やったら。 あなたにも、もっと年齢的にふさわしい人がいるんと違いますか。 紗枝でなくてもええんとちゃいますか、」
陸にそう語りかけた。
陸はふっと笑って
「ぼくには・・もったいなさすぎる人です。」
そう言った。
「年も年です。 子供は無理かもしれへんし、」
「そんなことは大した問題ではありません。 子供がいなくても・・いい人生だってあるはずです。 ぼくは子供が欲しいからという理由で結婚するわけではなくて、紗枝さんと一生を共にしたいと思いました。 死んだ母は父と離婚してぼくら姉弟を女手一つで育ててくれました。 ほんまに強い人でした。 きっと生きていたら。 ぼくが紗枝さんを選んだことをだれよりも褒めてくれる、そう信じています。」
陸…
南は彼の後ろに控えてそっと涙をぬぐった。
「ぼくの一生をかけて。 紗枝さんを幸せにします・・いや、紗枝さんが幸せだと思ってくれることがぼくの幸せです、」
陸はもう一度深く頭を下げた。
そしてなぜか南も一緒に紗枝の両親に結婚のあいさつに行きましたが、やはり彼女の両親の驚きは大きく…
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