「は、ナニ? いきなり、」
南はマスカラをつけながら鏡の前で電話をしながら思わず声を張った。
「ほんまに? めっちゃ急やなあ。 うん、うん・・・。 へえ、そうなん。」
器用にその上片手で眉を整える。
「でも! ええやん! またこっちこれるなんて。 嬉しいし。 え? 墓? だいじょぶだいじょぶ! あたし大阪出張ある時いっつも行ってるし。 ノリちゃんとこにもよう頼んであるし。 お母ちゃんかて、喜んでるよー。 え? あ、そっか。 あたしも時間ないわ。 んじゃ、またゆっくり話聞かせて。 じゃね」
バタバタと電話を切った。
「器用だなあ。 電話しながらメイク完成させて、」
同じように身支度をしていた真太郎が呆れたように笑った。
「ちょっと! そんなことどうでもええねん。 あのな、陸が東京に転勤になるんやって!」
南はすっかり完成した顔でそう言った。
「え? 陸が?」
「そう! 厳密に言うと。 陸のデザイン事務所が東京にも開業することになって。 そこの現場担当のトップ扱いやって。 すごくない?」
「へえ。 栄転じゃない、」
「ま、あの子は若くして一級建築士の免許も取ったし。 デザインも設計もどっちもできるしな。」
デキのいい弟を自慢げに言った。
「じゃあ、ずっと東京に?」
「ううん。 ま、1年って言ってたけどな。 事務所が軌道に乗るまで・・。 にしても。 そろそろヨメももらわないとアカンのにだいじょぶやろか、」
南はもうそっちの心配をしていた。
南の弟・陸は南よりも5歳年下のもうすぐ35歳。
いまだ独身を貫いている。
「陸はしっかりしてるから自分でなんとかするよ、」
真太郎は笑い飛ばしたが
「いや。 陸には絶対にいいお嫁さんを見つけて所帯持たせてあげなきゃ。 これだけは死んだお母ちゃんとの最後の約束だと思ってるし、」
実際は。
南は高校を卒業してすぐに家出して東京に来てしまった。
当時中学生だった陸は、母一人子一人状態になり
実家の食堂を手伝ったり、忙しい母に代わって家のことをしたりと
遊びたい盛りをそうやって過ごしていた。
そして陸が高校3年生になる直前。
母は突然の心筋梗塞で倒れてそのまま亡くなった。
自分は親不孝をして、その上弟の自由を奪ってしまったと
南はその時から何としてでも弟を一人前にすることだけを思って必死に頑張った。
結局母とは家出した時以来、顔を合わすこともなく
別に母の遺言などを聞いたわけでもないのだが
とにかく陸を一人前にする
そのことを勝手に『母の遺言』だと思っていた。
そしてpart11の始まりです。
以前ちょっとでてきた南の弟・陸のおはなしになります。
ここまでくるのにいろいろあった姉弟ですが、陸が大阪から東京に転勤になったところから話は始ります…
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